約 2,188,138 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1328.html
――それは、ほんの一瞬、いや、刹那といった方が良いかもしれません。 それ程に、短い、本当に短い間の出来事でしたでした。 「……あれ?」 「あれあれ?」 ふと気がつくと、ニジュクとサンジュは、いつの間にか広い広い、 一面をいろいろなお花に覆われた、草原の上に立っていました。 「「……」」 そうです、クロやセンは、森を抜けたら次の村に着くといってました。 しかし、 「おはないっぱいだね……」 「ひとやおうち、いないね……」 そのように、村があるといった風には、全く見えません。 「どなってるのかな?」 ちょっと舌っ足らずなニジュクです。 「わかんないの……」 ぶんぶんと首を振るサンジュ。 ただただ、何が起こったのか理解できず、二人はきょとんとするばかり。 そんな時でした。 「……えっとぉ、あのぅ」 後ろから女の子の声が聞こえます。 「「……っ?」」 きょとんとした顔のまま、二人はゆっくり振り向きました。 そこには、見慣れない奇妙な服に身を包んだ、 年の頃なら二人より少しお姉さんな女の子がいました。 「だれ?」 「だれなの?」 ライトブラウンの長い髪、その両側を短く結んでいる二つのリボン、 二人のものよりちょっと薄め青いの半袖の上着に短めのスカート、 そして何より、右はエメラルド、左はルビーのような、きれいなきれいな目をしたその女の子は、 「えっ?」 と言ってきょとんとした顔をしました。 そんな女の子を見て、 「「あっ!」」 やっちゃったといった顔になった二人。 「サンジュ、サンジュ」 「そうだよ、ニジュク」 「いけないことだよ」 「クロちゃんにおこられちゃう」 顔を見合わせ、両腕をぶんぶん降る二人。 そんな二人の様子に「えっ? えっ?」と目を点にして戸惑う女の子を横目に、 「「ひとになまえをたずねるときは、まずじぶんからなのらなきゃだよ」」 普段からよくクロに言われていたことを、思い出していたのでした。 「……さて、クロよ」 「何だい、セン?」 「俺たちは、テルヌーゼン村に向かってたんだよな」 「ああ、そうだね」 「それで、あと少しで森を抜けるところだった」 「確かに、そうだった」 「なのに、何でまだ森の中なんだ……?」 「さあてね……」 黒衣に身を包み、棺桶を背負った旅人と、その連れであるコウモリは、いつの間にか、森の奥深くに連れ戻されていた。 クロの様子は至って平静であった。――棺桶を背負うための革製のバンドを握る手が、いつもよりも力がこもっているようだが。 そんな、素っ気なく答えているようで、実は急な状況の変化に戸惑っているクロの様子を、センは見て取っていた。付き合いの深さと、 クロよりも重ねている歳と知識の深さは、伊達ではないということか。 ただ、セン自身も戸惑いは覚えていた。クロへの問いかけが、自身の動揺を抑えるためのものでもあることを、センは自覚していた。 それだけ、今の状況は突然、身に降りかかったものだった。 確かに、あと少しで、森を抜けられるはずだった。 そして、あの双子は駆け出し、出口に到達した。 その、刹那だった。 出口の光がいきなり大きく玉状に膨張して、爆発したのだ、音もなく。 真っ先に巻き込まれたのは、あの双子。 そして、二人を助けるどころか、否応もなくクロとセンも膨張する光に飲み込まれた。 叫び声さえ、上げる暇もなく。 そして、また森の中。 ただ、雰囲気が違う、というか、おかしい。 空気の様子、鳥の鳴き声、生えている樹木の姿形等々、……状況は森の中なのに。 何より。 「もう少し、木々が鬱蒼と生い茂っていても良いはず、……だ」 「確かに。三日間、私たちはあまり太陽を拝められなかったからね」 「でも、今はこんなにも、太陽が燦々と照ってやがる」 「……つまり、ここは」 「違う森、それも、人が介入しまくっている、人工の森かな。見ろよ」 センがある一点を指さす。 「あの道。かなり整備が行き届いている。定期的に補修も行われてるな、ありゃ」 「私たちが歩いてたのは、あまり人が立ち入らないような森だったからね。道はあったけど、お世辞にも立派とは言えないものだった」 「ああ。全く、何でこうなっちまったのか……」 センは頭を抱えた。 「……」 クロは押し黙った。 あの、白い双子の行方が気になった。 自分たちの傍らに、二人はいない。 真っ先に光に飲み込まれて、以来行方知れず。 ついさっきまで、傍らで元気にはしゃいでいたのに。 今までも急に行方知れずになったことは、確かに数知れない。 だが、今の状況は明らかに前例にない、異常なことだ。 今、何処にいるのか。 何をしているのか。 いや、寧ろされているのか。 (まさか、いや、そんな、でも……) 徐々に、不安が募る。不安で押しつぶされそうだ。 「ねぇ、セ……」 連れのコウモリに話しかけようと顔を向け……、 「んっ?」 視線の先にいないことに気づく。 そして。 「ねえ君何て名前? おっと、見目麗しいレディに名乗るより先に名前を聞くなんて紳士的じゃなかったね。 ボクの名前はセン。見ての通りのコウモリさ。でも、そんじょそこらの男何かより、君のことを楽しませる自信はあるよ。 どう? 陽はまだ高いけど、今からでもどこかで遊ばない? 君みたいな可愛い娘となら、 きっと楽しくて熱い一時を過ごせると確信してるから――」 「えっと、あの、その……」 一心不乱に口説きにかかっている一匹のコウモリと、その状況にあたふたとしている、 栗色の長いサイドポニーの女性を見つけ、 ――かすかに青筋を立てた。 「あたしは、ニジュクなの」 黒い猫耳と尻尾を持つ女の子が言った。 「あたしは、サンジュってゆうの」 白い猫耳と尻尾を持つ女の子が言った。 「ニジュクに、サンジュ……」 ヴィヴィオはつぶやいた。 その二人は、あの光る蝶を摘んだ瞬間、突然現れた。光と共に現れた。 ほんの、刹那のことだった。 そして今、興味深げに、四つのエメラルドグリーンのくりくりまなこが、今だ戸惑うヴィヴィオを見つめる。 「「ねぇ、あなたはだぁれ?」」 くりくりまなこが、見つめます。 「えと、……ヴィヴィオ、高町ヴィヴィオ、っていうの……」 若干の戸惑いを残しつつ、ヴィヴィオはニジュクとサンジュに名乗った。 「へえー、ヴィヴィちゃ、なのね」 そういったのは、ニジュク。 「ヴィヴィちゃん、ってゆうんだぁ」 そういったのは、サンジュ。 ヴィヴィ、ちゃ……。 「……えー、……うん、そうなの」 二人の勢いに、押されるヴィヴィオ。 「かわってるね」 「かわったおなまえだね」 幼子は歯に衣を着せることを知らない。 そのことで、ヴィヴィオは少しムッとした。 「……うん、よく言われる。そんなの分かってる。でも可愛い名前だねっていわれることもあるし、それに」 初対面でそんなことは言われたくない。 だいたい、 「二人だって、変わった名前だと思うけど。ていうか、何か変な発音だし」 そんな二人に、言われたくないというのは、正直な気持ち。 ヴィヴィオの言い分に、今度は二人がムッとなる番です。 「そんなことないもん」 「へんじゃないもん」 ニジュクとサンジュは口を尖らせます。 「あたしたち、はかせのじっけんたい」 「そのなかで、とくべつななまえ、はかせがくれた」 「えっ、実験た――」 「「そんななまえが、へんなわけないもんっ!」」 ムキになって反論する二人に、というより、思わず知ってしまったその二人の誕生の秘密に、 今度は愕然としたヴィヴィオだった。 「――ッ、そんなことが……」 「まあ、俄には信じてもらえないとは思いますけど……」 驚くサイドポニーの女性に、クロはため息混じりで答えた。 それもそうだ。いきなり光の爆発に巻き込まれて、気づいたら別の森(?)の中にいただなんて、 早々信じてもらえる話ではない。良いとこ、変人扱いされておしまいだ。 だが、 「いえ、この世界ではごく希にですけど、そのような事件や事故がないわけでもなくて、 私はそういったことを取り扱う仕事をしてますから」 きりっと表情を引き締めて、彼女は言った。 「信じます。大丈夫ですよ」 その彼女――高町なのはの言葉に、ようやく安堵の気持ちになれたクロは、 「……ありがとう、ございます」 心から、感謝の気持ちを込めて、言った。 「……それにしても、なのはさん」 「クロさん?」 「あなたが魔法使いだなんてね……」 「んー、魔法が使えるって言っても、せいぜい空を飛ぶことぐらいですけどね」 「しかし、私のことを一目見て、あなたはこう言った」 「……」 「『あなたの体は、もしかして本当は……』ってね」 「すいません、思わず初対面の人に失礼なことを――」 クロは頭を振る。 「いえ、別に気にしてませんよ。……でも、そう言われたのは二度目、かな」 「クロさん……」 「なかなか言われることではありませんから、……成る程、うん、きっとあなたは、その時空管理局ってところでは、 いろいろと活躍なさっていらしゃるのではないのかな、ふふッ」 「いえ、そんなことは、……もうッ、クロさんったら」 「ふふッ……」 微笑みあう二人。どうやらそれぞれの身の上も、ある程度お互いに話しているようで。 それにしても。 「あの、……クロさん、あのコウモリさん、は」 「ああ、いつものことですから、気にしたら負けですよ」 なのはの言葉に素っ気なく応えるクロ。 実はこの二人が見知った、そもそもの原因にして、結果として仲を取り持った功労者たるコウモリ――センは、 「~~~~ッ! ~~~~~~ッッ!!」 戸惑うなのはを無理矢理ナンパしたことを罪状に、猿ぐつわの上に簀巻きの刑に処されて道端に放置されていた。 「それにしても、その、……ニジュクちゃんとサンジュちゃん、今、何処にいるんでしょうね……」 「そうですね……」 うつむき、押し黙るクロ。 なのはは、そんなクロを見て、つい今し方のことを思い出す。 「――ッ! 何、今の感じ……」 樹に寄りかかってうたた寝していたなのはは、突然の衝撃に目を覚ました。 地震か? 否、それ以外の何か巨大なエネルギーの衝撃に、体が反応したというのが正しい。 とは言え、未だ起きてすぐの頭は、ボンヤリとしてなかなか状況が把握できない。休暇中で緊張感が乏しい分、尚更だ。 しかし、それでも周囲を見渡してみる。 特に目立って変わった様子、は……、あれ、ヴィヴィオ、何処に行ったのかな。……てッ。 「えッ、あの人、何でこの季節にあんな厚着をしてるんだろう……?」 その、黒衣に身を包んだ人物をなのはが見つけた、その瞬間。 「おっぜうすぅわーーーーーーーーーぁぁぁああああああんっっっっっ♪♪♪♪♪♪」 コウモリが光の速さで飛んできた。 センと名乗ったそのコウモリは、戸惑うなのはを口説き落とそうと必死になり、結果、 「……何をしている、セン?」 クロに、ジャイアントカプリコーンにされた。 「申し訳ありません、うちの連れが、大変な粗相を……」 黒衣に身を包み、背中に棺桶を担ぎ、眼鏡をかけたその人物は、慇懃に謝罪した。 「あっ、いえ、そんな、ご丁寧に……」 「そうだ、申し遅れました。私はしがない旅人をしております、クロと申します」 やはり、慇懃にお辞儀する。初対面の人間に対する礼儀をよくわきまえているようだ。 「えっと、ご丁寧にどうも……。私は、時空管理局で航空隊の戦技教導官を勤めています、高町なのはといいます……」 あれッと、なのは思った。相手の慇懃な態度に、どうやらつられてしまったようだ。 だが。 「時空、……管理局? 失礼ですがそれは、どのような組織なのですか?」 「えッ、ご存じ、無いんです、か」 「はあ、全く」 なので、ごく掻い摘んでクロになのははレクチャー。 「――お解りになりました?」 「……あー、まあ、なんとなく」 しかし、信じ難い顔をクロはしていた。 「でも、魔法使いって、そんなにこの世界にたくさん居ましたでしょうか……?」 「あの、クロさん、それはどういうーー」 「……そうだ、そんなことより」 「えッ、何ですか」 「幼い双子の姉妹を見ませんでしたか? 猫の耳と尻尾を持っているから、すぐに解ると思うのですが」 さっきまでの落ち着いた態度から一変して、クロは些か狼狽した表情をしていた。 そして、お互いの身の上を話し合って、――今に至る。 「……何となく、把握しちゃいました」 クロが、ぽつりと呟いた。 「ここは、どうやら、私たちの旅していた世界とは、別次元にある世界らしい」 「クロさん……」 「ありがとう、大丈夫です。それより、ニジュクとサンジュと、ヴィヴィオちゃんの安否が先でしょ? 早く見つけないと、ね」 「ッ! ――はい」 強い人だと、なのはは思った。 (あの二人も、ヴィヴィオと同じなの……) 花の絨毯の真ん中で、ヴィヴィオは愕然としていた。 自分と同じく、ニジュクとサンジュもまた、作られた生命。ということはあの二人も、 創造した人のエゴに振り回されて、もしかして今まで悲しい思いを……。 「? ヴィヴィちゃ?」 「ヴィヴィちゃん、……ないてるの?」 「えっ……」 そう言われて、ようやく自分の頬を伝う涙に気付く。 「ヴィヴィちゃ、かなしいの?」 「ヴィヴィちゃん、どうしてなくの?」 ヴィヴィオを気遣って、ニジュクとサンジュは顔を曇らせます。 「えと、これは……」 「あっ、サンジュっ!」 「なに、ニジュク?」 「もしかして、あたしたちがおおきなこえ、だしたからかな」 「……えっ?」 「……っ! そうだよニジュク、なまえがへんっていわれて、ムキになっちゃったから」 やっぱり、ぶんぶんと腕を、顔を見合わせて二人は振ります。 「えっ、えっ?」 「そうだね」 「そうだよ」 まあ、ちょっと勘違い、ですかね……。 とは言え、そう言うことで納得した二人は、 「ごめんね、ヴィヴィちゃ」 「あたしたちがわるかったの、ヴィヴィちゃん」 ぺこりと頭を下げたのでした。 そんな二人にあっけにとられたけれど、でも……、 「……ううん、ヴィヴィオだって、二人の名前が変って言っちゃたんだし、……ごめんなさい」 ヴィヴィオも、ぺこりと頭を下げた。 「……おあいこだね」 そう言ったのは、ヴィヴィオ。 「おあいこだね」 そう言ったのは、サンジュ。 「おあいこ、おあいこ♪」 そう言ったのは、ニジュク。 そして三人は、顔を見合わせて、 「「「きゃははははっっっ」」」 と、笑い転げたのでした。 「さて、と。しかし、ここって結構広いですよね?」 「ええ。歩き回って捜すのは、ちょっと骨かも」 「成る程……」 クロは、うつむき加減に呟いた。 《マスター》 「レイジングハート?」 「えっ、今の声、その首の宝石から……」 目を見開き驚くクロに、 「ええ、私のインテリジェントデバイス『レイジングハート』の声です」 そう言って、宝玉状態のRHを手に持って見せるなのは。 《驚かせて申し訳ありません、クロさん》 「あっ、いえ、……しかし、成る程」 まじまじとRHを見つめるクロを可愛いなと思いつつ、なのははRHに尋ねた。 「それで、どうしたの」 《ここから半径二百メートル以内で、クロさんとセンさんの出現時に発生したエネルギーに酷似したエネルギー発生の残照らしきものを確認しました。 ですが、完全に同時に発生したことと、その放出量があまりにも微量、及び発生後、何らかの要因で急速に拡散したらしく、場所の特定までは……》 「……そう」 《申し訳ありません》 「いや、ぜんぜん大丈夫。それだけで上出来だよ、ありがとう、レイジングハート」 《了解、マスター》 「と言うことなんですけど」 「つまり、あの二人も、取り敢えずここにいる……」 クロは、胸をなで下ろしたようだ。 「とは言え、それでも徒に歩き回るのは、効率良くないから……」 そう言って、なのはは何か唱え始め、やがて胸の辺りに桃色の光球を出現させた。 「これが、あなたの……」 「探索魔法、そのサーチャーですよ」 ちょっと得意げに言って、 「お願い、ヴィヴィオとニジュクちゃん、サンジュちゃんを捜して」 なのははサーチャーを解き放った。 「さて、これで捜しやすくなったかな」 「でも、……もう少し、捜しやすくした方が良いかもな」 「えっ、それって……」 「何、より多角的に捜す方が、更に効率が良いって事です」 そう言って、クロはセンの拘束をようやく解いた。 「と言うことだ、セン」 「何が、『と言うこと』なんだよッッ!!」 「今の自分の状況、……解ってるよね」 「……しょーがねぇ、まあ、何時ものことだしな」 「宜しい。では、頼む」 クロは、背負っていた棺桶を近くの樹にゴトリと立てかけた。 「はいはい、了解しました。――あっ、なのはちゃん」 「えっ、何ですか?」 「まあ大丈夫だと思うけど、……驚かないでね」 「? どういうことですか?」 センの言ったことを理解できないなのはに、クロは、 「こういう事」 と言って、棺桶の蓋を開けた。 「……えええええええええっっっっっっ!!!!!!」 流石のエース・オブ・エース(または自主規制)も、流石に素っ頓狂な声を上げてしまった。 無理もない。 棺桶から夥しい数のコウモリが飛び出してくれば、どんな人間でも身じろぐくらいはしてしまうだろう。 その数、九百九十九匹。 バサバサバサバサバサバザハサバサ……。 喧しい羽音を響かせて、飛び立っていく……。 そしてセンも、 「そんじゃ、行ってくる」 「頼んだよ」 「ああ」 飛び立っていった。 「……あの、クロさん」 「はい」 「その棺桶、どんな仕掛けがあるんですか」 「いえ、これと言って、特に」 「武器とか、仕込んでませんよね?」 「いや、流石にそれは……」 四方に散らばって行くコウモリ達を、呆然と眺めつつ質問したなのはに、頭をかいて答えるクロ。 「これで、あの子達があの時みたいに花火を打ち上げてくれれば……」 ぽつりとクロが呟いた言葉に、 「ゑッ! 何ですか、それッ!」 あからさまに狼狽する、なのは。 「えっ、いや、自分たちの居場所を教えるための信号弾代わりに花火を渡してて……何か、不味いことでも?」 「ここ、……自然公園内なんです」 「はぁ」 「火遊び、厳禁なんです」 「はぁ」 「やっちゃうと、管理人の人に怒られて、お財布が少し寒くなるくらいの、罰金取られちゃうんですッ!」 「……成る程」 そして、なのはとクロは、 (*1) と、願ったのだった。 さて、その頃のヴィヴィオとニジュクとサンジュは。 「これ、……花火、なの?」 「だったかな?」 「まえにつかったとき、そういわれたかも」 「いわれたかも」 エプロンドレスをたくし上げ、その下につるしていた円筒を、猫耳の双子はヴィヴィオに見せました。導火線らしきものが着いてます。 「これ、……何に使うの?」 「うんとね、クロちゃが『みちにまよったときにつかいなさい』って、ゆってたの」 「まえにクロちゃんとセンとはぐれたとき、つかったの」 「おいちゃに、クロちゃのおてがみよんでもらったの」 「それで、おはなをきいろくしたの」 「きいろにしなさいっていわれたから、きいろにしたの」 「それで、そらに、おっきいきいろいおはながさいたの」 「おっきいおとして、びっくりしたの」 「びっくりしたの」 「でも、ちょっとしたらセン、むかえにきてくれた」 「だから、つかいたいの」 「ふぅん……」 ヴィヴィオは、いまいち双子のいうことが解りません。 「えと、つまり、この花火を使えば、センって人が迎えに来てくれるんだよね」 「セン、ひとちがうよ」 「セン、コウモリだよ」 「……そっ、そっか」 やっぱり、ヴィヴィオにはいろいろと理解できないようです。 「とっ、とにかく、これを使えば、……ママも解ってくれるかな」 「だいじょぶ」 「きっときてくれるの」 「……うん、わかった。その『クロちゃんのおてがみ』、見せて」 「よめるの?」 「わかるの?」 「学校通ってるもん。大丈夫だよ」 そして、ニジュクから、その手紙をヴィヴィオは受け取りました。 「……読めない」 「なんで?」 「おじちゃん、よめたよ?」 「だって、学校で習ってないっていうか、見たこと無い文字だし……」 「みたことないの?」 「つかえないの?」 「うーん……」 手紙とにらめっこをしているヴィヴィオ。 その様子に、流石に不安になる、ニジュクとサンジュです。 「クロちゃにあえないの?」 「クロちゃん、きてくれないの?」 「ママ……」 そんな時でした。 「君たち、こんな所で何しているのかな」 おじさんの声がします。優しそうな声です。 でも、突然話しかけられて、三人はびっくりしました。 「「「うわあっっっ!!!」」」 「おっとと、……いや、ゴメンゴメン、びっくりさせてしまったようだね」 三人の視線の先には、おさまりの悪い髪を、申し訳なさそうに掻いている、 しかし優しく微笑んでいるおじさんが立っています。 「おや、それは打ち上げ花火かい? 駄目だよ、君たちだけでやろうとしては。そう言うのは大人の人にやってもらわないとね。 まあ、そもそもここは自然公園だから、花火で遊ぶのは駄目なんだけど……」 ニジュクとサンジュは、ポカンとしてます。 ヴィヴィオも最初はそうでした。でも。 「おじさん……」 ヴィヴィオは知っています。 「えっ?」 「ヴィヴィちゃ?」 ママの知り合いです、知ってますとも。 「『魔術師』のおじさんッ! こんにちはッ!」 「いや、だから私はリンカーコアなんて無いから、……おや、よく見ればヴィヴィオじゃないか。 なのはママは、一緒じゃないのかい。……そう言えばこの子達は、君の友達かい?」 「えっと、ついさっき合って……」 「ニジュク」 「サンジュ」 飛び跳ねるように名乗ります。 「へぇ、名前が言えるのか、おりこうだね」 そう言って『魔術師のおじさん』は、二人の頭を優しくなでてくれました。 「えへへ、あたしたちなのった」 「こんどは、おじちゃんのばん」 「うん? ……ああ、そうだね、私は――」 その時です。 「――二匹に手ぇ出すなや、この変態ロリコン野郎ぉーーーーーおおおおおおッッッッッ!!!!!」 真っ黒い大群が、叫び声と共におじさんに突撃してきます。 「えっ、うわっ、……ぷッ!」 そして、瞬く間に『魔術師のおじさん』は、コウモリ達に押しつぶされたのでした。 「こっちで良いんだろうな、セン」 「ああ、間違いないぜ」 「ヴィヴィオ……」 センの報告を受けて、クロとなのはは、現場に走った。 そして、件の草原に到着。 「ヴィヴィオッ!」 「ママぁっ!」 見つけるやいなや、娘は母に飛びつき、母は娘の頭を優しくなでた。 「もう、勝手に離れたら駄目じゃない」 「ごめんなさい……」 「でも、無事で良かった……」 母は、娘を優しく抱きしめた。 「……」 ヴィヴィオは、ただ、なのはママの暖かさにニコニコとしていました。 「ニジュク、サンジュ」 「クロちゃ……」 「クロちゃん……」 クロは何も言わず、猫耳の双子を抱きしめた。強く抱きしめた。 「クロちゃ、いたいの」 「クロちゃん、いたいよ」 でも、不思議と、二人には不快な痛みではありませんでした。 「心配、したんだぞ」 「「……」」 「でも、無事で良かった、本当に……」 かすかに、クロは鼻をすすったようでした。 「ごめんね、クロちゃ」 「ごめんね、クロちゃん」 クロはただ、何も言わずに二人を抱きしめたのでした。 さて、各々が再会の喜びに浸った後。 「で、この下に?」 「ああ。あの一人と二匹襲おうとした変態野郎がいるぜ」 クロとセンの視線の先に、コウモリ達で築かれた黒山があった。 「全く、俺があいつ等見つけるのが少しでも遅れたら、どうなってたことか……」 センは、腕(?)を組み、得意げに言った。 「ねぇ、ママ」 「何、ヴィヴィオ」 「あのコウモリさん達の下にいるの、『魔術師のおじさん』だよ」 何気ない娘の一言に、 「……ゑッ!」 なのはの顔は、凍り付いた。。 確かに、魔術師・魔導師の類はいくらでもいるが、 敢えて『魔術師』と直接に比喩または揶揄される人物は、ミッドチルダといえど『あの人』しかいないッ! 「センさんッ! 早くそのコウモリさん達、どけてッッ!!」 「どッ、どうしたのなのはちゃん、急に取り乱したりなんか……」 「良いからッッ!! 早くッッッ!!!」 「うッ、わ、解ったよ……」 なのはの勢いに押され、渋々コウモリ達をどけるセン。 「はい、これで……」 なのはにタックルをかまされて、 「あーれー……」 センは遠いお空の星となった。 「大丈夫ですかッ、提督ッッ!!」 突っ伏していた『魔術師』を抱き上げ、彼の体についた草の葉を払いながら、尋ねた。 「……いやぁ、突然だったからびっくりしたけど、何とか大丈夫だよ。すまない、なのは」 何故か申し訳なさそうに頭を掻きながら、『魔術師』――ヤン・ウェンリーは苦笑していた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3069.html
春、桜が舞い散るこの季節に設立した古代遺物管理部第六課、通称六課 八神はやての指揮の下、粒揃いの精鋭が並ぶ中に スバル・ナカジマとティアナ・ランスターが胸を張って整列をしていた。 リリカルプロファイル 第十一話 六課 日は遡り此処は陸士386部隊の宿舎、その中に存在する中庭でスバルとティアナは悩みを抱えていた。 二人は先程までBランクの試験を受けていた、だが試験中にティアナは捻挫を起こし倒れ、 スバルはティアナを背負い合格を目指しゴールに向かっていった。 結果、制限時間内にゴールしたものの危険行為などの行動により失格とされたのだった。 その時にスバルの恩人で管理局のエースオブエースと呼ばれている人物、高町なのはと出会い なのはと共に二人は六課の施設に向かうと、はやて・フェイトの両名がソファーに座って出迎えていた。 二人には特別講習の推薦状と4日後の再試験の臨時手続きを手渡されたのだが、条件として六課への編入を要望されたのである。 古代遺物管理部第六課、通称六課とは八神はやてを部隊長に高町なのは、フェイト・T・ハラオウンとビッグネームが連なり ヴォルケンリッターの面々や各部署の精鋭達が犇めく部隊で、 主にロストロギアに関する事件を扱う事になっている、八神はやてが設立しようとしているエリート部署である。 そんなエリート部署にBランクの試験にすら落ちた自分達が編入しても良いのだろうか?と悩んでいると、二人の前に三つの影が近づいて来る。 「よぅお前等、試験はどうだったんだ?」 「あっカシェル……落ちちゃった」 「そっか……残念だな」 「でも、ある条件を満たせば追試を受けさせてくれるそうです」 その条件こそが六課への編入だとティアナは説明する。 六課設立の噂は瞬く間に管理局内に広がり、もはや知らない者はいないと言うところまで広がっていた。 そんな部署にスカウトされたなんて羨ましいとエイミが言うが、二人は断ろうと考えていると。 どう考えても自分達には相応しくなく、既にBランクを持つカシェルやエイミ、更にAランクを持つグレイ達を差し置いて 編入するのはおかしいとスバルは語った。その言葉にカシェルはスバルの額にデコピンを喰らわせた。 「バ~カ、折角のチャンスを不意にするんじゃねぇよ」 スバルは額を押さえカシェルを見つめるとカシェルは話を続ける。 スバル達には夢がある、今回の話は夢を叶えるきっかけだと それを俺達のせいにして不意にするのは卑怯だと熱く語った。 その言葉に続きグレイが話し始める。 「六課の部隊長はやての眼力は確かだと聞く、そんな人物に目を付けられたんだ、自信を持つと良い」 「でも、私達は未熟です…そんな人間が部隊にいたら――」 「ならば力を付ければいい」 ティアナの迷いにグレイはこう答えた。 これはかつて非力だった自分に対し、かけてくれた言葉で、 変わらぬ思いを秘めていれば自ずと力は付くと、ある人に教えられたと。 グレイがここまで強くなったのはその言葉と思いがあったからだと静かに…だが熱く語っていた。 それに六課には教導隊の教官でもある、なのはがいる為、力を付けるにはもってこいの環境だと付け足した。 そして最後にエイミが二人に励ましの言葉を贈った。 「大丈夫!私達はあなた達を応援してる、だから胸を張って行ってきな!」 そう言うと二人の頭をなでるエイミに対し、ハニカム表情を二人は醸し出していた。 カシェル達の励ましにより二人の瞳には強い決意の色を宿していた。 そして中庭を後にしようとすると、スバルがカシェルを引き留める。 「どうした?スバル」 「あの……元気にはなったんだけど、まだ不安があって…その御守りみたいな物が欲しいかな……って」 「御守り?」 「カシェルがいつも付けてるその指輪…御守りとして欲しいかな……なんて」 カシェルの右手の中指に付けている中央に赤い宝石が装飾されている指輪を指差すスバル。 カシェルは特に問題ないと指輪を引き抜きスバルに渡す、 スバルは両手で指輪を受け取るとカシェル同様、右手の中指にはめる。 「……どう……かな?」 「う~ん、ブカブカだな…新しい奴買ってやろうか?」 「いい!これで良いの!!」 「そうか?」 あっけらかんとした表情で左手で頭を掻くカシェルに対し、頬を赤く染め、指輪を包み込むように手を胸に当て微笑むスバルであった。 遠くではエイミとティアナがニヤケた表情でその光景を見つめていた。 「青春だね~ティアナ」 「そうですね~エイミ姐さん」 「……ティアナ…随分と行動がエイミに似てきたな…」 呆れた表情で二人を見つめるグレイであった。 場所は変わり此処は聖王教会の入り口、そこに大型犬化したザフィーラと ワゴン車の荷台に荷物を乗せる管理局の制服姿のシグナムの姿があった。 シグナムは荷物を乗せ終えると扉を閉め入り口へと向かう。 入り口にはアリューゼ、カリム、シャッハの順に並んでおり、シグナムはアリューゼに声をかけた。 「……本当に六課には行かないのか」 「わりぃな、誘ってくれたのは嬉しいが、俺にはやりてぇ事があるんだ」 そのやりたい事は六課では実現出来ないからだとアリューゼは告げる。 シグナムは名残惜しさを残しつつ、アリューゼと別れの握手を交わすとシャッハに目を向ける。 「あとは頼んだぞ」 「非才の身ながら“アリューゼ”の事は任せてください!」 「…何故そこに“アリューゼ”の名が出る」 微妙な空気が二人を包む中、ザフィーラに抱き付き頭を撫でるカリムの姿があった。 「辛くなったら、いつでも戻ってきていいんですよ」 「…………善処する」 そう言いつつ、カリムに目をそらし冷や汗を掻いているザフィーラであった。 そしてザフィーラは助手席に、シグナムは運転席に座ると、カリム達に別れを告げワゴン車はターミナルへと進路を取った。 一方ターミナルには赤い髪の少年が人混みに紛れながらも誰かを待っていた。 暫く待っているとシグナムが姿を現す。 「お前がフェイトが言っていたエリオか」 「フェイトさんのお知り合いですか?」 エリオと呼ばれた少年の問いに答えるシグナム。 本来は保護責任者であるフェイトが出迎えるはずであったのだが、 どうしても外せない用事が出来た為、急遽聖王教会から六課へ直接向かう予定であったシグナムに頼んだのである。 「もう一人いると聞いたが知らないか?」 「あっ…じゃあ僕が探してきます!」 そう言うとメモを貰い探しに行くエリオ、その姿を腕を組み見つめるシグナムであった。 「キャロさ~ん、六課隊員のキャロ・ル・ルシエさん~いませんかぁ」 エリオは探し人の名を叫びながら詮索していると、エレベーター付近で応える声を発見し目を向ける。 するとエレベーターから白いフードを被った同い年ぐらいの少女が大きなバッグを持って姿を現した。 少女は辺境の世界から来た為か、文明機器に慣れずエレベーターを降りる際に躓いてしまう。 エリオは時計型に待機してあったデバイスでソニックムーブを発動させ少女の肩を抱き助けるが、 助け出した後の魔法解除後の対応に体が追いつかず、少女を巻き込んで倒れてしまった。 「あいつつっ…大丈夫ですか?」 「あっ………あの、すみません………」 エリオの上で恥ずかしそうに答える少女…それもそのハズ、 エリオの手は少女の肩から胸に移動していたからである。 エリオは顔を真っ赤に染め、謝りながら手をどけ目を背ける。 少女もまたエリオの上から降りると恥ずかしさからか後ろを向いていた。 気まずい空気の中、少女の肩に真っ白い竜の姿がちょこんと乗ると、思わずその竜を見つめるエリオ。 「ドラゴン?」 「はい!フリードリヒ、フリードって呼んでます!」 フードを取りフリードリヒを説明するピンクの髪の少女キャロであった。 二人はシグナムと合流すると足早にワゴン車に向かう、中にはザフィーラが退屈そうに待っていた。 そこに二人を連れたシグナムが現れるとキャロはザフィーラを見るやいなや感想を述べた。 「うわぁ、大きい犬ですね!シグナムさんの使役獣ですか?」 「いや、我が主の守護獣だ」 シグナムは二人の荷物を荷台に乗せながら説明する、二人はその説明を聞きながらザフィーラを撫でていた。 シグナムが出発を促すと二人は後部座席に座り、一路六課へと向かった。 それから暫くして此処部隊長室では八神はやてがスピーチの文を書いていた。 「ダメや…緊張して何も出へん……」 この日はやては自分が思う以上に緊張していた。 何故ならば今日は六課が正式に発足されその挨拶をはやてはしなければいけないからである。 自分が思い描いていた六課の設立、様々な思いがはやての体を駆けめぐりそれが緊張となって言葉を詰まらせる。 一旦机を離れ外を見渡す、外は明るく式には最高の日和だった。 そこで胸に広がる言葉を一つずつ丁寧に整えていく。 六課を構想して五年、様々なことがあった、小娘だからと足蹴にされたこともあった。 必死に人材も集めた、カリムからザフィーラを引き抜くのに苦労したのも今や笑い話だ。 設立の際の立地条件や食堂のメニューまでこだわった。 そしてその苦労は今報われる、だがこれからも苦労は絶えないだろう。 だからこそ、此処にいるみんなで苦労を分かち合おう、 一人一人の努力が守る力となり悪の手から人々を世界を守ろう。 胸の内に集まった言葉を整理し一つの文が完成する、それとほぼ同時に式の準備を終えたと伝えられる。 はやては意気揚々に部屋を後にした。 六課の中広場にて粛々と式は進んでいた。 部隊長が挨拶をする中、スターズの隊長なのは副隊長ヴィータ、ライトニングの隊長フェイト副隊長シグナムが静かにその挨拶を聞き、 エリオ、キャロは真剣な面持ちで話を聞き、スバルとティアナは胸を張り整列をしていた。 ……その中でスバルの胸の中にはネックレスにしたカシェルの指輪が輝いていた…… 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/246.html
「へぇ、それじゃ社会科見学に来たの」 なのはの案内でハレとグゥは本局の廊下を歩いている。 前から本局の職員が来た。 なのはとハレは、小さく会釈。 グゥは右手を挙げて挨拶した。 「あははー、そうなんです。いきなり来てすいません」 「いいよ。ホントは事前に連絡しないといけないんだけど、ハレ君やグゥちゃんにはこの前助けてもらったし、私が手続きしておくよ」 「ははは、ありがとうございます」 愛想笑いをしながら、ハレはグゥを横目で見る。 「それにしてもグゥ、ここのどこが魔法の国なんだよ」 「なのはは自分は魔導士だと言っていたし魔法を使っていた。ならば、ここは魔法の国に違いあるまい」 「まぁ・・・・」 右の壁を見て、ぐるっと天井を見る。 「そうなんだけどさぁ」 今度は左の壁を見ながら前を見る。 別の職員が角を曲がるのが見える。 「魔法の国って言うより、都会って言うか、未来都市って言うかなんというか・・・」 また、別の職員とすれ違う。 頭を下げたなのはがハレのおかしな動きに気づいた。 「どうしたの?ハレ君」 「いえいえいえいえいえいえいえ。なんでもないです」 「そう?だったらいいけど・・・じゃあ、まずは隊長のはやてちゃんに会いに行きましょう」 「はい、わかりました」 二人は静かな誰もいない廊下を進んでいった。 はやての部屋は隊長の部屋だけあって広い。 部屋の主のはやてが見えないとなおさらだ。 「あれ?はやてちゃんどこに行ったんだろ?はやてちゃーーん?」 返事はない。 周りを見ていたハレは小さいミニチュアの机を見つけた。 「へー、小さい机ですね。これって、そのはやって人の趣味ですか?」 「ううん、ちがうの。リィンの机なの。後で紹介するね」 「え・・・・あんな机を使う人がいるのか」 ついたての後ろを見ていたなのはが戻ってきた。 「おかしいな。今日はここにいるはずなのに。ハレ君、お茶でも飲んでからまたこよっか」 二人は部屋を出て行った。 誰もいなくなった部屋には湯気の立つコーヒーカップがあった。 中では、ミルクが黒いコーヒーの中で渦を巻いて回っていた。 誰とも会うことなく来た食堂は明らかにおかしかった。 誰もいないのだ。 まだ食事時には遠いが誰もいないなんて事はないし食堂で働く調理員すらいない。 鍋は火をかけっぱなしで煙を噴いていてハレとなのはがあわてて消したくらいだ。 「おかしいな・・・みんなどこに行ったのかしら」 調理場以外の場所もよくよく見るとおかしい。 コーヒーカップやティーカップが置かれている机の上もあるし、そのカップから湯気も上がっている。 フォークの刺さったケーキがある皿もあれば、麺をつまんだまま落としたようなうどんもあった。 「はのはさん・・・俺、こういう話、聞いたことあるんですけど」 「私も聞いたことあるの」 「マリー・セレスト号でしたっけ」 「うん、それ」 二人は顔見合わせると、その場を走って飛び出した。 なのはとハレはそれからいくつかの部屋に飛び込んで行った。 だが、どの部屋にも誰もいない。 決して空にしてはいけないはずの部屋にさえ誰もいない。 誰1人としていない。 廊下で誰かに会うことさえない。 本局の部屋を半分ほど見たとき、 「うわー」「きゃーーー」「ひえええ」「ぐああああああ」 遠くから大勢の悲鳴が聞こえてきた。 悲鳴の方に走るなのはとハレ。 その二人に、角のから飛び出してきた赤い少女がぶつかった。 「ヴィータちゃん!」 「なのはか!」 ころんでしまったヴィータとハレになのはが手を貸す。 「どうしたの?」 「みんな・・・みんなやられち待った。あいつに・・・シグナムも、シャマルも、ザフィーラも・・・それに・・・はやても」 ヴィータが飛び出してきた角から、ひたひたという足音がやけにおおきく聞こえてきた。 「ちっ、もう来やがったか。なのはは逃げろ!それから、戦力を整えてくるんだ。いいな!ここはあたしが引き受ける!」 角に全速力でダッシュするヴィータ。 「いくぜ。みんなの仇だ!ラケーテンハンマー!!「Jawohl」・・・なっ、やめろ、はなせ・・・はなせ、うわあーーーーーーー」 すぐに静かになった。 再び、ひたひたと足音が大きくなってくる。 足音は角に迫り・・・・ グラーフアイゼンをつかんだヴィータの手を口から出しているグゥが姿を現した。 「お前かぁあああああああ!!!!!!」 グゥが首をちょっと動かして、ちゅるんと手を飲み込もうとするのをハレがつかんで止める。 「グゥさん。一体何をやっているんですか?」 「ちょっとな」 「ちょっとな・・・じゃねええええ。吐け、全部吐き出せ」 ハレが手を引っ張るとヴィータが出てきて、次の手が出てくる。 さらにそれも引っ張るとシグナムが出てくる。 さらに引っ張る・・・・シャマルにザフィーラ スバルにティアナにエリオにキャロ。 フェイトにヴァイスにシャーリー。 でるわでるわ、どんどん出る。 最後にリィンとはやてが出てきた。 「あーあ」 「あーあ、じゃねぇええええ。だいたい、いつからこんなことしてたんだ」 「それはな」 巻き戻し 再生 行をさかのぼって呼んでください。 「そう?だったらいいけど・・・じゃあ、まずは隊長のはやてちゃんに会いに行きましょう」 「はい、わかりました」 二人は静かな誰もいない廊下を進んでいった。 「その時からかぁあああ。どうするんだよ。これ」 廊下には、死屍累々とグゥに飲み込まれた人たちが横たわっている。 「そうね・・・みんな、元に戻しておくのがいいかな」 「二人でですか?」 「やだなぁ、なに言ってるんだい」 「私たちも手伝うわよ」 「ほれほれ、何ぐずぐずしとるん。早くせんと日が暮れるたい」 「ああ、そうだね・・・って、なんであんた達がいるんだぁあああ」 三人ほど起きている人間が増殖した。 「さっきハレハレが引っ張り出したんじゃないか」 「すごい勢いだったわね」 「ほんなこつ、びっくりしたたい」 「アンタラは戻れぇえーー」 「待って、ハレ君」 なのはがシグナムを引きずりながら言った。 「え?」 「その人達にも手伝ってもらいましょ」 「そうだよねー、人では多いほうがいいよね」 「じゃ、私はこの人」 「私はこっち」 三人はそれぞれ人を抱えて走っていった。 「なのはさん・・・」 「なに?」 「慣れてきてません?」 「すこし・・・かな」 その後なのは達6人は本局中をかけずり回る。 日誌に見学希望者により六課壊滅寸前の文字が記録されることはなかった。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/240.html
本日の献立は! …肉じゃが! おひたし! ぬか漬け! 味噌汁の具は、油揚げとほうれん草なり。 配膳確認、各自、箸の置き忘れはないか? ヴィータよ、速やかに席につけ。 飯が冷めるなり! シグナム、シャマル、リィン、はやて、覚悟…着席完了。 ザフィーラに猫まんまの用意あり。 全員…そろった、準備よし。 いざ! 「いただきます」 強化外骨格は飯を食えぬが、家族は皆で食事を摂るが八神家の掟なり。 今宵もただ、食卓に席並べて鎮座す。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第四話『葉隠禁止(前編)』 あの日、いきなりはやてが知らない男を連れて帰ってきた。 シャマルがそいつの名を知っていた…葉隠覚悟。 クソ重てえユニゾンデバイス、零(ぜろ)のマスター。 大ケガしてるくせに空港火災で人助けに走り回ってた、 死んでない方がおかしいケガで走り回ってたやつだ。 それだけでも胸クソ悪い…のに、一緒に話してるはやてが楽しそうにしてるのを見て、決定的にムカついた。 最初は数日世話になるだけ、とか言ってたけど、何考えてんだか全然わかんねーし。 わざとお茶、頭にこぼしてみても、なんにも言わねーで拭きやがるし。 怒るとかなんとかしろよ! バカにしてんのかよ! あの目つきがムカつく。 なんか色々見透かされてるみてーでムカつく。 もっとムカついたのは、こんな風にキレてたのがこのあたし、ヴィータ一人だけだったってことだ。 シャマルがいきなり言い出しやがったんだ。 「いっそ、ここにずっといれば? 覚悟君」 入院中はずっと身の回りの世話してたんだっけか、情が移りすぎだってんだよ。 「はやてちゃんは簡単に言うけどね、首都圏だと住む場所も高いのよ」 おめーこそ簡単に言ってんじゃねえよ、男だぞこいつ。 「はやての力になる気があるなら、ここに居る方がよほど実際的だ」 なのにシグナムまでこれモンだったから、あたし一人で認めねー認めねーって言ってたら、 「本日まで、まことお世話になりました」 荷物まとめて敬礼してよ、さっさと出て行きやがったんだよ、あいつ! 完ッ璧あたしが悪モンじゃねーか、ざけんな! その後、はやてに本気で怒られた。 「覚悟君、独りぼっちなんよ。 独りぼっちの子をほっぽり出すなんて最低や」 全員で探しに出て、なのはとフェイトにも手伝わせて、 明け方、あいつが高級住宅街の川べりで座り込んでたのを見つけたのは、よりにもよってあたし自身だった。 帰ってこいなんて言いたくなかった。 あたしは心を許していない…だから。 「メシ、できてんぞ、来いよ…いいから!」 それで突っ張り通して連れ戻したのが、早くも半年前の出来事だ。 今じゃずいぶん慣れたもんだよ、我ながら。 はやての言う通り、あいつが管理局の仕事を手伝うこともあった。 戦力としては、くやしいけど認める。 うちに来て早々、なのはとの対戦結果を聞いてたシグナムが心待ちにしてたみてぇに模擬戦を申し込んだんだけど、 正午に始めてから日が落ちるまで、ずーっとにらみ合ったまま動かねえのな。 で、最終的には、 「積極!」 「紫電!」 同時にしかけて相打ち。 剣と拳が紙一枚の隙間で止まってた。 「葉隠覚悟は袈裟懸けに深き一太刀浴び、即死いたしました!」 「烈火の将シグナム、貴様に首を砕かれて二度と立てん!」 「零(ぜろ)の意志、果たせぬまま終わりました」 「主はやてを置き去りに散ってしまったか」 「不甲斐なき也(や)!」 「私もだ!」 なに、固い握手してんだよ。 戦い通じて友情はぐくんでやんの。 これだからバトルマニアはイヤだよ。 それからはもう、ヒマを見つけては試合(しあ)ってて、たまにあたしも巻き込まれたから、 弱いわけねーってのはよーくわかった。 ラケーテンハンマーを『因果』された時は最低の気分だった。 回転始めて力を溜めた瞬間に「隙あり 因果」とか、やってらんねーよマジで。 空気読めってんだよ。 おかげで、より遠くから打ちかかれるように技自体を改良するしかなかった。 そんくらいには、強い。 だから、ガジェットドローンを素手でズッコンバッコンぶっ壊されても、別に驚かなかったな。 零(ぜろ)は仮封印処置を取られてて許可がないと使えねぇって話で、 シグナムと立ち会ったときにも実際装備しなかったけど、ぶっちゃけあいつ武器いらねーって。 ま、そんなこんなのそんなこんな。 全員一緒の休日がとれたあたし達は、遊園地に行くことになった。 クラナガン・サン・ガーデン。 最近できた遊園地だとか。 んなことはどうでもいいんだ、楽しけりゃな。 だけどよ…こいつ、完ッ璧、ダメだ。 マッハがつくポンチ野郎だ。 はやてにムリヤリ組まされて、その辺はっきしわかった。 ガンシューやったんだよ、ガンシューティングな。 『スーパー・リアル・アサルト3』。 最近ゲーセンに入ったばかりの新作が、大迫力の立体映像で遊べる。 遊園地だと後がつかえるから、二人プレイでライフ共有になってるけどな。 うん、まあ、銃自体はうまかったんだよ。 ほとんど百発百中であきれたしな。 だけど弾は切れるようにできてるのがゲームってもんで、 「弾、切れるだろ、あれ撃てよ」 向こう側に出てきたカートリッジを指さしたんだけどよ… 「なにやってんだよ、撃てってば」 「火薬の塊たる弾倉に銃弾叩き込むなど、正気か、ヴィータ!」 「いやこれ、ゲームだから! ゲームだから! そういうモンなんだってば、そういうルールなんだってばよ」 「しかし…これはリアル、すなわち現実的であると銘打たれていたからして、そのような…」 「だーっ、アホヤローッ」 銃をぶん取ってあたしが撃ったら、弾が満タンになって、 あいつは釈然としない顔でゲームを続けてた。 あたしもぶちぶち言いながら結構先まで行けたんだけどよ、それで終わりじゃなかったんだよなあ。 ガンシューだとよ、ヘルプミーとか言って出てくる民間人いるじゃん。 撃つとワンミスになる邪魔なやつ。 ボスの直前に大量配置されてたんだよな、今作。 それを、あいつな…反射的に撃っちまったのな。 アーオゥ! とかいう悲鳴と一緒にワンミス。 「…今のは!」 「民間人だな、撃つとワンミス」 「なんだと…」 「あいつの盾になるよーに配置されてんじゃねーかな」 「外道許さじ! 正しき因果極めてやる」 んで、銃をピッタリ構えたかと思ったら、奥にいた敵キャラにしこたまぶち込みやがった。 一発撃てば死ぬのによー、こいつはもー。 「あらがえぬ人々の痛み、覚えたか」 「ノリノリだよな、おめー…あ、でも一発残したのな」 弾の補充のために残したか、やっと飲み込めてきたみてぇだな。 ここからはフツーにやれそうだ、そう思ってたのによぉ。 「…何やってんだ? それ、何のマネだ?」 「自害なり」 大真面目に銃口をてめえの頭に向けているこいつに、そろそろ泣きたくなってきたあたしは正常だよな? 「誤射にて罪なき人の生命を絶ったとあらば、我が生命、捧ぐ以外に償う途(みち)なし」 「だから、これゲームだから! それより、ボスが来っぞ」 「首魁(ボス)!」 また眼鏡をギラリと光らせやがった、こいつ。 嫌な予感がするんだけどよ、とりあえず言うだけのことは言って… 「弾一発じゃどうしようもねーから、おめーはすっ込んで」 「問題なし」 「はぁ?」 「胸すわって進むなり。 正義に敗走は無い!」 もう、何言っていいんだか全然わかんねえ。 その後すぐ、ライフ共有のせいで、あたしもろともゲームオーバーになった。 「あっはっはっはっは!! ふわはははははははっ!!」 何が悪かったのであろうか。 てめえはリアルで死ねと言われて蹴飛ばされたゆえ、 昼食がてらはやてに一部始終を伝え是非を問うてみたのだが。 …なにゆえ、皆は笑うのか? シャマルに、リィン、シグナムまで。 「あー、もうダメ、お腹痛くなっちゃって、もう…あはは、ははははっ」 「お腹が痛い?」 「言っておくが違うぞ覚悟、ぷっ、くくくくくっ」 食事に悪いものでも入っていたのかと立ち上がりかけたのを シグナムの両手に軽く制された。 「いや、すまん、おまえを笑い物にする気はない。 むしろその馬鹿正直さは好ましい」 「なにが悪かったかって、本気で聞いてるんだもんね、ふふっ」 「リィンはそんな覚悟くんが大好きなのですよー」 「わたしもや。 もー、ほんと、覚悟君らしーわぁ」 笑い物にされているなど、最初から思っておらぬなり。 皆の微笑みが、これほどに暖かければ。 ザフィーラに目をやると、尻尾をひとつ振って寝転んで居た。 その脇にかがみ、なにやら下を向いていたヴィータが立ち上がり、こちらに向けるは鋭き視線。 「どいつもこいつも…あたしの身に、なれッ!」 ずかずかと歩み来て、わが傍らに置かれたトランクをばんと叩く…何をする。 「零(ぜろ)よぉー、おまえ、こいつにどういう教育してんだよ、こらぁっ」 『我らはただの強化外骨格なれば、常識一般を教えることはできぬ』 零(ぜろ)はすでに心を許していた。 はやてに近しい人全てに。 やはり、はやて主導による徹底した人間扱いが効いているのかも知れぬな、と思う。 零(ぜろ)も一度は止めたらしいが、郷に入りては郷に従えと逆に諭されてしまったという。 ヴィータがこうしてからむのも、今日では日常茶飯事なり。 「にしてもよぉー、もうちょっとよー」 『生まれた世界が違うのだ! やむをえぬ部分は許してくれぬか』 「あんまり、零(ぜろ)を困らせたらあかんよ、ヴィータ」 荒れる様を見かねてか、はやてがたしなめにかかるも、 ヴィータはますますへそを曲げている様子。 やはりおれに落ち度ありか。 「あたしが困らされてんだよ、こいつに! とにかく、もうあたしはイヤだからな、こいつとは行かねー」 「よくわからぬが、申し訳ない」 「謝ってんじゃねーよ、もっとムカつくんだよ」 ではどうしろというのだ。 半年も共に生活しているが、このヴィータのことは未だわからぬ。 彼女らは皆、かつては闇に囚われた戦鬼(いくさおに)であったとは シグナム、シャマル自身の口よりすでに聞いており、その強さにも首肯せざるを得ぬが、 日常のヴィータがただの少女に過ぎぬことに変わりなし。 おれの何が彼女の機嫌をそこねるのか… 「ほなら、しゃーないわぁ」 はやてが席を立ち、おれのとなりに来た。 彼女もまた、たまにわからぬことをするので困るが… 「覚悟君、一緒に行こか。 お化け屋敷」 「お化け屋敷?」 「ヴィータが行きたないみたいやし…怖いんやね」 「彼女ほどのものが恐れる場所とは!」 奇っ怪至極! 遊園地、まっことわからぬ場所(ところ)なり。 先の射撃訓練施設といい…ここは民間人の遊戯場ではないのか? 「わたしは覚悟君と一緒なら怖ないねん」 「了解、謹(つつし)んで護衛させていただく」 …なぜ笑う、シャマル、シグナム。 これは試されていると見るべきか。 よかろう、ならば応えよう。 お化け屋敷がいかなるものであろうとも、はやてに指一本触れさせぬなり! 「征くぞ!」 「うん。 みんな、零(ぜろ)のこと見ててなー」 「待て、っつの」 突如、足を踏みならしたヴィータに振り返ると、 またずかずかとした足運びにて我らの征く道阻みたり。 「止めるな、ヴィータ」 「あたしも行くってんだよ」 「怖くはないか」 「ざけんな」 「良し!」 やはり彼女も戦士であった! ならば共にいざ征かん。 目標、お化け屋敷! 「あ、リィンも行くです、行きたいですーっ」 ―――これが、わが腑抜けぶり思い知る、実に五分前であった。 「覚悟くんたら、もう、ねえ?」 「まったく、少しは洒落のわかる男になれと言いたいが…どうした、零(ぜろ)?」 『侵略行為が行われている!』 「…なに?」 『半径50m以内、室内なり』 「なん、だと」 『追うのだ、覚悟を! はやてを!』 「言うに及ばず!」 「くるしい、ひぐっ、たすけて、息が…」 「撮るよーっ! 次は脱いでスマイル!」 「い、いやだあっ」 「お肉も脱いでスマイル!」 「ぎゃっ、ぐぶげっ!」 「バッチリ撮れたよー、お代は結構! だってボクの写真は芸術だから!」 「ひ、人喰った…お化け屋敷に、ホントにオバケ…おまえ、なに? ナニモノ?」 「ボクは戦術鬼(せんじゅつおに)、激写(うつる)! さあスマイルスマイル、撮るよーっ!」 「助け、うげぇっ」 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1468.html
その一撃は唐突だった。 『予測』不能ッ、『防御』も不能ッ! 完全に不意を突いて、その一撃は用心深いなのはの懐に直撃した。 今、SLBの為の魔力を終息し終え、発射寸前という臨界状態のなのはの胸から、何者かの手が『生えている』―――ッ!! "ドッバアァアアアア―――z_____ッ!!" 「なッ……ぁ、ぁああ……ッ!!?」 突如、何の前触れもなく自身の体の内側から走った衝撃に視線を降ろせば、何者かの腕が胸から突き出ていた。 肉体を突き破って出てきたものではない。しかし、この手は確かになのはの内部を貫いて出現しているッ! そして、その手のひらの中には、なのはの魔力の源である『リンカーコア』があった。 貫いていたのは『肉体』ではなく『魔力的器官』だ。 「な……なのはァアアアアーーーッ!!」 ある種凄惨な光景に、それを見てしまったフェイトが悲壮な叫びを上げた。 しかし、助けに行きたくとも、シグナムがそれを許さない。 「う……あ、あ、ぁあああ……っ」 全身を襲う脱力感と内臓に直接触れられているような激痛を感じながら、なのはは思考を回転させた。 SLBは……『撃てる』! 依然、魔力は集束中! だが、自身の魔力が猛烈な勢いで減少している。『行動』しなければ、今動けるうちにッ! すぐにでも気絶してしまいそうな、断末魔の一瞬! なのはの精神内に潜む爆発力がとてつもない冒険を生んだ。 普通の魔導師は追い詰められ、魔力が減少すればリンカーコアを庇って逃げようとばかり考える。 だが、なのはは違った! 逆に! 『な、何……この子!?』 遠く離れたビルの屋上から、なのはのリンカーコアをデバイス『クラールヴィント』によって掴んでいたシャマルも、その変化に気付いた。 「レイジング……ハート、『バインド』……ッ!!」 なのはは自らの心臓とも言うべきコアを握り締めた敵の腕を、逆にバインドで自らの体ごと縛り付けて、固定したのだ! 「馬鹿な、正気か……っ?」 「なのは、なんて事を……!」 それと見たシグナムとフェイトも戦闘を中止するほどの、驚愕の判断だった。 自分のリンカーコアを握る相手の腕を、逆に『固定』する。普通の者はそんな判断は下さない。 実際に、なのはも一人で戦っていたのなら、こんな無茶はしなかっただろう。まず、ダメージを最小に押さえる事を考える。 しかしッ、なのはは本能で理解していた。 感覚で分かる。魔力が吸い上げられる感覚、この手は自分の魔力を『吸収』している! (これは……『この攻撃』はマズイッ! 魔力弾とか結界とか、そういう魔法攻撃じゃなく、この全く違う『攻撃』は危険だ……ッ!) 敵を倒す為の手段ならば、コアを捉えた時に全ては決している。 だが、敵はコアを潰すのではなく吸収する事を選んだ。 その行為にどういう『目的』があるのかは分からない。しかし、魔力を『奪う』という手段が、計り知れない『大きな目的』に直結しているのだと、なのはは直感した。 この『敵』、この『目的』を放置しておくのは危険だ。ここで倒しておかなければならない―――ッ! なのはは、己の直感に従って、そう判断したのだった。 「目標、変更……既に、『位置』は掴んでいるの……ッ!」 『……! い、いけない!!』 レイジングハートの砲口が向きを変える。 シャマルは我に返った。あの少女は、自分を捉えている。自分は既に狙われている、と! 「スター……ライト……ッ」 「シャマル!」 冷静に動けたのはザフィーラだけだった。 アルフとユーノを弾き飛ばし、全速力でシャマルの元へ駆けつける。 「ブレイカァァァーッ!!」 次の瞬間、桃色の閃光が一直線に空間を切り裂いた。 『シャマル、無事か!?』 『……ええ、なんとか。寸前でザフィーラが防御してくれたわ』 『だが、逸らすので精一杯だった。おまけに、俺もダメージを受けた。とんでもない威力だ、片腕が動かん』 爆光の後、すぐさま念話を飛ばしたシグナムの心に仲間の声が返ってくる。 シグナムは安堵した。 ヴィータの消息も不明な今、これ以上仲間を失うのは御免だった。 そして今、もう一つの意味でも安堵していた。 なのはは、SLBを放つと同時に、力尽きて倒れ伏していた。 「さすがに、無茶をしすぎたようだな。だが……正直冷や汗をかいたぞ。恐ろしい発想と度胸を持った魔導師だ」 「な、なのはぁ~……」 一方のフェイトはシグナムとは全く正反対の心境だった。 「わ……私、どうすれば……? な、なのはが……嘘だ!」 「……どうやら、あの魔導師がいなければ本当に何も出来ないようだな」 未だ戦える状態にありながら、既に戦意喪失してうろたえるしかないフェイトを冷めた目で一瞥し、シグナムはレヴァンティンを構えた。 予想外の事態はあったが、魔力は十分に手に入れた。あとはヴィータを回収して、増援が来る前にここから逃走するだけだ。 「ザフィーラとヴィータの容態も気になる。さっさと済ませるか……消えろ!」 目の前にシグナムが迫っても、もはや震えることしか出来ないフェイトに向かって無慈悲に剣を振り上げる。 ―――しかし、突如下方から閃光が飛来し、シグナムは反射的にそれを回避した。 「何……っ!?」 「……え?」 フェイトから離れたシグナムを、更に別の閃光が襲う。 桃色の光を放つ魔力弾。それが四つ、ミサイルのように自在に軌道を変えて、シグナムに襲い掛かっていた。 それはッ、間違いなくなのはが持つ魔力の光! 彼女の魔法『ディバインシューター』だったッ!! 「な……」 フェイトは目を見開いて、魔力弾の飛来した方向に視線を走らせた。 「ディバイン……シュー……ター……」 「なのはァアァァァ―――ッ!!」 起き上がる事も出来ないほど衰弱した体で、しかしなのはは半ば無意識に魔法を使い続けていた。 朦朧とする意識で操作されているとは思えないような正確さと、獣のような獰猛さで、ディバインシューターは逃げ回るシグナムに追い縋っていく。 「うっ、ううっ……。本当に、その通りだったんだね……なのは」 フェイトは、ボロボロになりながらも戦うなのはの姿に溢れる涙を堪えきれず、震える声で呟いた。 脳裏に、かつてなのはと戦った時の事が思い出される。 あの時、なのはの示した『覚悟』が。その時、なのはが言葉にした『覚悟』が。 「『いったん食らいついたら、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『魔法』は解除しないと』私に言った事は!」 海上での戦い。事実上、なのはとの最後の戦いになったあの時、彼女の叫んだ言葉が鮮明に浮かんでくる。 その言葉は、あるいは冷酷な響きを持っているのかもしれなかった。 ―――しかし、同時にフェイトは別の言葉も思い出していた! なのはが、厳しさだけではなく、途方もない優しさを抱えている事を実感した時の言葉も! 全ての出来事が終わり、一旦のの別れとなった、二人で会ったあの時の事―――。 「これから、もうしばらくお別れになっちゃうね……なのは」 「……うん」 「私ね、なのはと友達に……なりたいな」 「……」 必死に言葉を紡ごうとするフェイトの様子に、なのははチラリと一瞥を向けただけだった。 「でも、私、友達になりたくても、どうすればいいかわからない……。だから、教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれ―――」 「ねえ、フェイトちゃん。さっきからうるさいよ 『友達になりたい』『友達になりたい』ってさァ~~」 「え……」 無言のなのはに不安になり、捲くし立てるように喋っていたフェイトは、突然遮ったなのはの突き放すような言葉に凍りついた。 恐る恐る顔を上げれば、なのはは戦った時のような強い視線で自分を見つめている。 その強すぎる意志の瞳を、フェイトは睨まれているのだと感じた。 「どういうつもりなの、フェイトちゃん。そういう言葉は私達の世界にはないんだよ……。そんな、弱虫の使う言葉はね……」 「ご、ごめんなさい……っ!」 なのはの強い口調に、フェイトは絶望的な気持ちになりながら俯いた。 拒絶されたのだと、考えた途端に涙が溢れてくる。 友達になりたいなどと、なんておこがましい考えだったのか。フェイトは自分が分不相応な領域に踏み込んでしまったのだと感じた。 ……だが、そんな弱気な考えに沈んでいくフェイトを意に介さず、なのはは告げた。 「ごめんなさい……もう友達なんて欲張りな事言わないから……っ」 「『友達になりたい』……そんな言葉は使う必要がないんだよ。 なぜなら、わたしや、わたしの親しい人達は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には! 実際に相手を抱き締めて、もうすでに終わっているからなの―――」 そして、なのはは泣きじゃくるフェイトを強く抱き締めた。 「え、なのは……?」 「『友達になりたい』と心の中で思ったのなら、その時スデに絆は結ばれているんだよ」 そう言って笑ったなのはは、やはり、いつもの幼い少女の顔ではなかったが―――フェイトの全てを包み込むような、黄金の輝きを放つ笑顔を浮かべていた。 「な、なのはァァ~……ううッ」 「フェイトちゃんもそうなるよね、わたしたちの友達なら……。わかる? わたしの言ってる事……ね?」 「う……うん! わかったよ、なのは」 「『友達だ』なら使ってもいいッ!」 今度は嬉しさで泣きじゃくるフェイトの体を抱き締めた、小さいけれど大きく、暖かいなのはの腕を、今でもはっきり覚えている―――。 「―――わかったよ、なのは! なのはの覚悟が! 『言葉』ではなく『心』で理解できたッ!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ そして、フェイトは変貌していた。 その『面がまえ』は、10年も修羅場を潜り抜けてきたような『凄み』と『冷静さ』を感じさせる。それは、はっきりと『成長』だった。 もう、プレシアの影を追い続ける泣き虫のママッ子(マンモーニ)なフェイトはいなくなったのだ! 「『友達になりたい』と思った時は、なのはッ!」 『<Scythe form> Setup!』 フェイトの戦いの意思に呼応し、バルディッシュがフォームを変化する。 「―――すでに私達は絆で結ばれているんだね」 かつてない速度で飛翔する。 本来の戦闘スタイルを取り戻したフェイトは、かつてなのはと戦った時と同等……いやかつて以上のスピードでシグナムに肉薄した。 レヴァンティンの刃と、バルディッシュの光刃が激突する。 「何、この気迫……! さっきとはまるで別人だ!?」 『シグナム、聞こえる? ザフィーラとヴィータを連れて逃げたいんだけど、ダメなの! まだ私の腕は固定されているみたいなのよ!!』 眼前に迫るフェイトと聞こえてきたシャマルの念話に、歴戦のシグナムをして冷たい戦慄が走り抜けた。 「やるの……フェイトちゃん。わたしは……あなたを、見、守って……いる、よ……」 ―――もはや半ば気を失いながら、魔法を行使し、且つ自分の命を鎖にして敵を捉える続ける少女の覚悟。 ―――僅か時間で、臆病な弱者から戦士へと変化した目の前の少女の成長。 シグナムは自らの体験している出来事が、まったく未踏の領域にある事を理解した。 苦境には何度も立たされた。命がけの戦いにも挑んだ。 だが、今自分が目にしているものは、それらとは全く種類が違う『脅威』だ―――! 「何者だ……お前達は!?」 「なのはが選んだ……『撃退』じゃなく『撃破』! アナタたちはここで倒すッ! 私はフェイト・テスタロッサ! 高町なのはの『友達だ』―――ッ!!」 バ―――――z______ン! リリカルなのはA s 第二話、完! 戦闘―――続行中!! ヴィータ―気絶中。 シャマル―拘束中。 ザフィーラ―負傷。なのはのバインドを解除作業中。 アルフ、ユーノ―負傷、気絶中。 なのは―昏睡状態。しかし、魔法は依然継続中。 to be continued……> 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3075.html
「ふぅ、これで良しと。あぁモスキー君、ちょっとかよ子さんの所までコレ届けて貰える?」 「あ、はい。このタッパーですか?」 「そうそうそれ、明日はレッドさんとの対決だからヤル気を出して貰う為にもちゃんと精をつけて貰わないと♪あ、中の汁が漏れるといけないからちゃんと水平に持ってね。」 「解りました。それじゃあ行って来ま~す!!」 「電線に引っ掛からない様に気を付けてねぇ~それとレッドさんにもちゃんと挨拶するんだよ~!! ………はぁ………」 ヘンゲルとの会談から数日経った夕方、ヴァンプは今日の夕飯のおかずを調理しその一部をお裾分けする為、赤い大きな目が特徴の蛾型怪人モスキーに頼んだ。 だが彼が去った後に漏れたヴァンプの溜め息はどこか疲れた様子だった… 『天体戦士リリカルサンレッド』この物語は川崎にて繰り広げられる善と悪の壮絶な闘いの物語である――― FIGHT.00『忍び寄る、異世界への魔手!!』(後編) ~翌日~ 「ったくお前らは毎度毎度懲りずによぉ…」 いつもの公園にて繰り広げられた善と悪の壮絶な戦いの後、半ズボンに妙な文章がプリントされたTシャツ(今日は『カラスの天敵はユリカモメ』と書かれている)、 そしてヒーロー独特のデザインをした赤いマスクが特徴的な男性…溝ノ口発の真っ赤なヒーロー『天体戦士サンレッド』がタバコを吹かしながらフロシャイムの面々に説教をしていた。 無論ヴァンプをはじめとしたフロシャイムのメンバーが正座をしているのは言うまでも無い… 「大体よぉ、自分達から時間を指定しておいて遅れて来んのはどう言う事だよ?やる気あんのかア゛ァ?」 「そんな滅相も無い!!私達やる気は充分に「うるせーから黙ってろ。」す、すいません…」 レッドはヴァンプの抗議を遮り二本目のタバコに火を付け、少し間を置いてから話を続ける。 「おまけによぉ…何で相手がまたコイツなんだよ!?前に倒したじゃねーか、パワーボムでっ!!」 レッドが怒鳴りながら指を指した先にはヴァンプの隣で鼻血を垂らしつつも無表情…もとい何も考えずにボーッと正座している細身ながらも逞しい体つきをした青い狼型怪人、 タイザがいた。 「実はこちらの書類ミスで今日来る筈だった怪人が来なくて…それで都合のつく怪人がタイザ君しかいなくてその…」 ヴァンプは弁明をするがどうも歯切れが良くない。 「それでまたコイツかよ…もういい加減にしてくれよ。意志疎通の取れない奴や花粉症になってる怪人が出て来るわ…最近グダグダ過ぎるんだよお前ら!! ホンットこっちのヤル気も失せてくるわ、マジで!!」 「えぇそんなぁ!?ヤル気を出して貰う為に昨日お裾分けしたじゃないですか、ブリ大根!」 「どこの世界にブリ大根を貰ってヤル気の出るヒーローがいるんだよ!? だいたい昨日のは生臭かったしよぉ!」 レッドは感情に任せて怒鳴り散らし、ヴァンプも反論をするがあっさりと一蹴されるが… 「アレ、レッドさんもやっぱり生臭く感じたんですか?」 そこに割って入った者がいる。タイザの隣で正座をしていたフロシャイムの戦闘員2号だ。 「え、もしかして2号も?」と、更に隣で正座をしていた1号も続く 「1号もか。いやぁ良かったぁ~昨日の晩もしかして俺だけなんじゃね?と思って心配したんだよ。」 「あ~解る解る(笑)。ヴァンプ様に限ってまさか…と思って中々言い出せなくてさぁ~タイザさんはどうでした?」 「わすれた~でもおいしかったぁ~。」 「えぇそうだったの!?そう言えば昨日は生姜を入れ忘れてたような…あらやだどうしよう、後でかよ子さんに謝らないと。」 「お前ら俺を無視して話してんじゃねぇ!!つーかヴァンプ、俺には謝んねぇのかよ!?」 「え~だってレッドさん、味音痴じゃないですか…」 「臭い位解るんだよ俺でもっ!」 そんな問答を繰り返していく内に、だんだんと話がそれていく。 「ったく…おい戦闘員、二人共コーヒー買って来い。微糖な。で、いったいどうしたんだよヴァンプ?」 レッドは呆れながらもベンチに腰掛け、戦闘員をパシらせてからヴァンプに問う。 「え、何がですか?」 「とぼけんな。対決がグダグダになんのはいつもの事だけどよぉ、お前が誰かに言われるまで料理の失敗に気づかねぇ何て結構な『事』じゃねぇか…一体何があったんだよ?」 ヴァンプは最初キョトンとしていたがレッドの指摘に言い返せず、ゆっくりと口を開く 「あの、実は…悩んでる事があるんです。」 「はぁ?悩み?何だよ珍しいじゃねぇかお前に悩みなんてよぉ、何だリストラか?それともクビか?まさかその歳になって恋の悩みとか言い出すんじゃねぇだろうなぁ~(笑)」 レッドは興味深げに身を乗り出し、四本目のタバコに火をつける。 「いえ、そう言うのじゃなくて…実はその、異世界への出張があるんですよ。長くて一年ほど…」 「はぁ出張?何だよ全然たいした事ねぇじゃねーかツマンネェ…」 レッドはヴァンプの期待外れな悩みに肩を落とす。 「そ、そんな…レッドさんは私達が一年も出張するの心配じゃ無いんですか!?」 「何でヒーローが悪の組織の心配しなきゃならねーんだよ?俺は一年もお前らに振り回されずにすむんで清々するぜ。」 「ヒ、ヒドイ!私が向こうの水は合うかとか言葉は大丈夫かとか、向こうの病院にかかる時保険料はどうなるのとかで色々と悩んでいるのにそれを他人事みたいに…」 「まんま他人事じゃねーか…だって俺、他人だし。」 「すいませーん遅れました!!」 「はぁはぁ、コーヒーが売り切れてまして…コンビニまで行ってました…ってどうしたんですかヴァンプ様!?」 戦闘員達が息を切らして戻って来たのは丁度ヴァンプがワナワナと震えだした時だった。 「もぅいいです!!私達は来月の金曜に出発しますけどレッドさんなんか他の怪人にヤられちゃえばいいんです! 1号、2号、行くよ!!ほらタイザ君も起きて。全くレッドさんがここまで薄情だとは思わなかった、私。」「フガ、フアァイ…」 「あ、ヴァンプ様待ってくださ~い。」 「レッドさん、コーヒーです。失礼しましたっ!」 ヴァンプはいつの間にか寝ていたタイザを起こし、プンプンと言うSEが似合う剣幕でスタスタと帰ってしまう。そして戦闘員もレッドにコーヒーを渡して後を追う。 「おぅおぅ行ってこい。そんでハクでもつけて戻って来いやぁ~!! ……………ったくあんな怒んなくてもよ…」 レッドは帰ってくヴァンプ達に野次を飛ばす。そして彼らが去った後ボソリと愚痴り、ベンチの背にもたれながら貰ったコーヒーに口を付ける。 「チッ、アイツら微糖つったのにまた甘ったるいの買ってきやがって…」そう呟くとレッドはグイッとコーヒーを飲み干した。 ~出発当日~ 「町内会の池田さんやお向かいの森末さん、それにかよ子さんや他のご近所の皆さんとも挨拶を済ませたし…それじゃあ皆、忘れ物は無いね?」 荷物を纏め、支度を済ませたヴァンプは同行する戦闘員、怪人達に声をかける。 ちなみに今回同行するのは戦闘員1号、2号、タイザ、メダリオ、カーメンマン、ウサコッツ、デビルねこ、Pちゃん改、ゲイラスの9人であり、他の怪人たちは後発組として出発する事になっている。 「じゃあロウファー、後の事はお願いね。解らない事とかがあったらちゃんと聞くんだよ。ご近所の皆さんや怪人の皆は良い人だから教えてくれるし。」 「うん、任せて兄さん。兄さん達がいない間、ちゃんとアジトの番をしとくよ。」 川崎支部の指揮にはヴァンプの弟でありフロシャイム静岡出張所隊長であるロウファーが研修を兼ね川崎支部将軍代理として就くことになった。 「うん、天井さんもいるしロウファーなら大丈夫だしね…それじゃあ皆、少し早いけど行くよ。新宿駅に行くからまずは溝ノ口に向かうね、 道中は一列になって進むから車に注意してね~」 周りのは~いと言う返事の後、ヴァンプを先頭にしたフロシャイム先発組はゾロゾロと連なって歩き出す。だがその道中にある人物が現れた。 「おいおいお前ら…まるで遠足みてぇじゃねぇか。」 「あ、レッドさん…」 レッドである。彼は普段の格好(今回は無地)でヴァンプ達の前に立っていた。 「どうしたんですかレッドさん?ま、まさか忍び寄る魔の手から異世界を守る為に私達を抹殺しに…」 「バカ、そんなメンドクセーことしねーよ… ほらよ、餞別だ。」 レッドはそう言うとポケットからあるモノを取り出し投げ渡す。ヴァンプや怪人達は若干身構えていたが、ヴァンプは落としそうになるも何とか投げられたモノをキャッチする。 その手にあるのは赤い色をした一見おもちゃの様に見える銃だった。 「これってサンシュートじゃあ…悪いですよこんな大切なのを貰うなんて!?」 「バカ、誰がやるなんて言ったよ。貸すだけだ『貸す』だけ!!帰ってきたら返せよな。 それによぉ…勘違いいしてんじゃねぇぞ?この前かよ子に棚の修理やらされて、そん時に偶然見つけたんだ。そんで手ぶらだと何か落ち着かねーから持ってきただけだ …別にお前らの為にわざわざ探した訳じゃねぇんだからな!!」 レッドは普段から赤い顔を更に赤くさせながら捲し立てる。 「レッドさん…まさかヒーロー物お約束の『悪の組織に武器を奪われピンチになる』と言うシチュエーションをグスッ、わざわざ…あ、1号ちょっとティッシュ貰える?御膳立てしてくれる何て…」 「だぁから違うつってんだろ殴るぞテメェー!! つーか時間とか大丈夫なのかよ?」 「あらやだ困る、せっかく転送ポートを手配して貰ったのに遅れたら迷惑がかかっちゃう。それじゃあレッドさん、コレ借りてきますんで」 ヴァンプは涙ぐんでいた顔を切り替え行こうとするが、急に立ち止まりレッドの方を向く。 「あの、レッドさん…」 「何だよ?」 「再び我等が現れる時それがサンレッド、貴様の最後となる…それまでせいぜい首を洗って待っておるのだ!!」 「いいからさっさと行ってこいバカッ!!」 「痛っ!?」 いらんことを言って殴られるヴァンプであった。 「レッドも素直じゃないよねぇ~」 「アレじゃね?ほら、いつも苛めてた奴が引っ越すんで寂しいとか?」 「あ~言えてる言えてる。何かそんな感じじゃん(笑)」 「テメェ等もゴチャゴチャぬかんしてんじゃねーよ!!」 「「「痛ぇっ(い)!」」」さらに殴られる怪人達だった。 ~新宿駅~ 「う~んやっぱり平日でも新宿は混んでるねぇ…」 「それでヴァンプ様、転送ポートってどこにあるんですか?」 「ちょっと待ってね、確か京王百貨店口改札の男子トイレだから…あぁこっちこっち。」 ヴァンプ達は京王線京王百貨店口にある男子トイレの個室に向かう。そして戸を開けるとそこには青く輝く魔方陣がある。 「それじゃあ皆、準備は良い?他の人に気付かれないように早く入っちゃおうね。」そしてフロシャイムの面々は転送ポートへ順に入り、次元航行艦の前に現れる。 「あ~向こうに着いたら彼女に連絡しないとなぁ…」 「あ、そう言えば1号も遠恋か。俺も連絡しないとなぁ~」 「魔法の世界って楽しみだねネコ君!!」 「うん、良い糖尿病治療があると良いなぁ…」 「℃¥$¢£%#♂♀°*&∞∴」(とにかく楽しみらしい) 「向こうでバイト探さないとなぁ~」 「俺、向こうのカップ麺がどんなのか楽しみだぜ♪」 「またカップ麺かよ(笑)つか船に乗って酔うなよな~」 「お出かけ!お出かけ!」 (レッドさん…頑張ってきますね、私達) 彼らはそれぞれの思いを胸に船へと乗り込む。 だがボディーチェックの際サンシュートが管理局法に引っ掛かり、急遽ゲイラスがレッドへの返却の為に後発組へとシフトすることになった… ~続く~ 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1626.html
第零話『永劫の開演』 其処は様々な色彩が混濁した、異形の闇だった。 昏く淀み、白く醜く、ありとあらゆる色彩表現から逸脱された怪異に侵されし闇だ。 その邪悪に彩られた世界の中心、ヒトのと呼ばれる生命を模された影が、舞台の中心で踊るように両手を掲げる。 ―――哂(わら)いながら。 『ハハっ……予想だにしなかったよ、今回の結末は。やっぱり九朗君は何処までも僕の予想を裏切ってくれるねぇ。 それもまた一つの物語、陳腐で愛すべき、最も忌むべき刹那の永劫!』 それは、余りに邪悪過ぎた汚濁の微笑みだ。 あらゆる感情が唸りをあげて混ざり合い、感情という想念を越えた怨嗟の叫びだ。 度重極まったその憎悪は―――然り、愛と似ている。 純粋で真っ直ぐ過ぎたその邪悪は、相反する愛情となんら変わりばえが無いと言えた。 影は―――『女』は、哂い続ける。 目の前の混濁の海に漂流する、一つの『黒い人影』を見据えながら、嘲笑を零した。 『だが、そんな刹那の永劫もこう何回と続けば飽きちゃうモノだよね。―――ほんの少しくらい、“お遊び”をしたって誰も文句は言わないさ』 そうだ。 あの無限の檻に囚われた『二人の王』の御伽噺。 よもやあのような結末になろうとは、如何なこの『女』としても計り知れぬコトじゃなかった。 だからこそ。あれくらいの枝の数では、足りないのだ。ならば増やそう。 枝の数を増やし、彼等をそれに絡めさせ、さながら人形劇のように操り続けようと。 用意をするのは簡単だ。 だが物語(セカイ)の骨子(プロット)を推敲するには少しばかり時間が必要だ。 だが、無限輪廻においてかの二人の王を育て続けた『女』だ。これくらいの時間、刹那すらほど遠い。 が――、それでは少々無粋だ。いくらあの“女”とて、遊びを欠いては飽きてしまう。 せめて、そうだ。 『もっと別の御伽噺』を作って観るのも悪くは無い。せめてもの『暇潰し』だ。 道化は道化らしく、お遊戯は丹念に清々を篭めて、子供のような邪悪を孕ませたつまらない御伽噺を作っていく。 ―――それが彼女、『無■■神』である『■■■■ラ■■■ッ■』が思いついた戯れ事。 ―――『女』は溺死体のように闇の海をたゆたう『男』をまた見つめ、愉快げに手を差し伸べた。 黒い装甲は所々剥がれ落ち、元々あった筈の顔を覆う仮面は先の戦いで破壊され、少年のようなあどけない寝顔をさらしている青年。 かつて実の姉に殺され、恨み、妬み、辛み、憎悪の限りを以って殺し愛った黒き天使。五つ目の黒き堕胎。 『だけど“それが良い”。ずっと昔から壊れている人形が、どんな風に踊ってくれるのか。 それを見届けるのもまた一興。泡沫に消える楽しい一幕さ』 邪笑。 『女』は本当に楽しそうに、身を捩(よじ)りながら、悶えるように、喘ぐように謳う。 ……狂騒劇の始まりを! 狂った御伽噺を! 嗚呼、愚痴たる人間を贄として、儚くも強壮な物語を! そうして、『女』は告げた。 狂った笑顔で。無の貌(かお)で。灼ける三つの眸に孕ませた、苛烈に熾(おこ)る憎悪と愛を以って。 『―――では、始めよう! 君は僕に愛される資格を手に入れられるのか! それともただの陳腐で唾棄すべき存在のままでいるのか! 嗚呼、君が踊る演目は一体どんなモノなのだろう。ワルプルギスの再来か、グランギニョールの狂喜か!』 歓喜に似た声は感極まって、この混沌たる闇の世界すら歪ませる程の邪悪が詰まった笑い声を発する。 一頻り喋り終わり、呼吸を整える。 そして、期待に心を膨らませながら、憧れるように、恋焦がれるような静かな声でこたえた。 『それとも―――そう。この邪悪に冒された狂騒劇を、荒唐無稽に無理やり終わらせてくれる ―――“デウス・エクス・マキナ”へと成り果てるのかな?』 その言葉を最後に、『女』は己が欲にのまれながら狂喜して、暗き混濁の海にたゆたう黒い影……『男』の周囲を円形状に歪めていく。 カチリと、鍵の音が響いた。 この世界から、異なる世界へと通じさせ/転移させ/開闢させて。 『女』は尚も哂う。 言わせてみれば、総ては決まったコトなのだ。この遊戯も。この物語も。 『そう――――総ては、ナ■アル■ト■■■■の意のままに!!』 * 主役は憎悪に焦がれた黒い影。 深く淀んだ恩讐と殺意は、時として愛によく似ていた、最後まで愚かであり悲哀であった男。 黒き天使の名を冠する復讐者。 ヒロインは未だ壇上に昇らず。影は独り、絶望に酔いながら踊り狂う。 ……されども。 『――否(いや)! まだだ、まだ間に合う!!』 一つの、脆弱な光が必死に叫ぶ。まだ絶望するには速いと。 否、絶望などさせるものかと。 だがその光も、この壇上という囲いの外に在る。舞台に上がるには未だ至らず。 未完成の箱庭。 不実の輪。 蛇の輪舞曲(ウロボロス・ロンド)。 それでは、始めるとしよう。 白き王の紡いだ荒唐無稽の御伽噺とはまったく別で、それでも、その愚かな生に縋って足掻き続ける、弱く、醜く、そして愛すべき物語を。 『機人咆哮リリカルサンダルフォン』、開幕。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/564.html
「姫矢さぁん!」 光の中に消えていくウルトラマン―姫矢准。僕はただ、彼の名を叫ぶことしか出来なかった……。 ダークメフィストこと溝呂木眞也と姫矢を包む消滅を告げる光が、異空間の暗い空を満たしていく。それはこの 一連の事件の終焉を示すものでもあり、また―……。 「ここは……何処だ?」 ウルトラマンで‘在った 者、姫矢准にとっては新たな始まりを意味していた。 鳴海の岸に流木と共に漂着していた彼の手には、デュナミストの証がしっかりと握られていた。それの僅かな鼓動と 共に、彼はこの世界で眼を覚ます。 手に入れたのは光の力。出会いと別れ。悲しみを知る彼が不屈の心を持つ少女と出会う時、新たな絆が生まれ来る。 魔法少女リリカル☆なのは~NEXUS~ 始まります 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1234.html
魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 第六話「その日、機動六課。そして崩れ落ちる城(前編)」 忠勝は六課のヘリポートに立つ。 どうやら何かの警備らしい。どちらにしろ自分は居候の身なので行けない。 「じゃあ・・・忠勝さん、ヴィヴィオを・・お願いね。」 なのはとフェイトが少し寂しそうにヘリという空を翔る船に乗る。ヴィヴィオも寂しいのだろう顔が不安で染まっている。 しかしこれも仕事。三人もよくわかっているはずだ。このままでは埒が明かないので、心を鬼にしてヴィヴィオを連れてその場から去った。 「忠勝っ・・・」 ヴィータが何か言いそうだったのをシグナムが止める。 「言うな。本多も・・・辛いんだ。」 皆が乗ったヘリは管理局地上本部へと向かった。予言が現実になるまで・・・あとわずか。 有名な管理局員が集まる管理局地上本部。 ニュース番組にてレポートが始まり、現場にいけなかったメンバーはそれぞれの思いでモニターに目を向ける。 「公開意見陳述会開始まで、あと三時間を切りました。本局や各世界代表による、ミッドチルダ地上管理局の運営に関する意見交換が目的のこの会議。 波乱続きとなることが珍しくなく、地上本部からの陳述内容について注目が集まっています。今回は特に、かねてから議論が絶えない、地上防衛用の迎撃 兵器「アインヘリアル」の運用についての問題が話し合われると思われます。」 忠勝も、モニターに眼を向ける。ヴィヴィオは今、アイナが相手をしてくれている。 「陳述会の開始まで、ライブの映像とともに、実況を続けていきます。」 忠勝は立ち上がり、何もないことを祈りながら外に出ることにした。 外に出ると、隣からこの世界にいるはずのない見知った男が現れた。その男は巨大な錨を持ち、真剣な面持ちで忠勝に話しかけた。 「いよぉ、戦国最強本多忠勝さんよ。今日はなンか重要な日らしいな。」 男の名は長曾我部元親。戦国の世では何度か戦ったことがある。忠勝は槍を構えた。 「おいおい、ここで戦闘したってしゃあねぇだろ。一応俺はアンタに話をしにきた。風魔もいるんだがな、怪我をしちまってて来れねぇ。」 忠勝は槍を下ろし、また誰もいない門へと顔を向けた。向けたというよりかは、睨んでいる。 嫌な予感が彼の頭から離れなかったのだ。だからこうして、門の向こう側から映える太陽を眺める。 それぐらいしか気を紛らわすことができなかった。 「それで・・・俺達がこの世界に来た理由・・・ちょっとずつ・・・憶測だがわかってきたぜ。」 「!?」 「まぁ落ち着け・・・。俺等より前に生死不明になったやつ等がいてよ・・そいつらが関係してるみてぇだ。」 自分達より生死不明になった武将・・。 考え込んでからしばらく経ったあと、忠勝はハッとしたように元親の顔を見る。 「そうだ・・・魔王のオッサン・・・織田信長、その配下・・・明智光秀。この二人は本能寺で明智光秀が謀反を起こし、崩れ去る本能寺の中で 斬り合ってたのを最後に、サッパリ姿形消えちまった。」 その話は自分も知っている。 炎で焼け落ちる本能寺の中で斬り合ってた魔王と悪臣。崩れ落ちた本能寺の瓦礫を掃除しても遺体すらなかったという。 残るはずの武器も消えていた。つまり、もしかしたら自分達より先にこの世界に来たのかもしれない。 「・・・で、この世界に来てから知ったんだが・・次元震っつーもんがあるらしいぜ。一見普通の地震と変わらねぇがその地震によって次元と次元を 繋げる穴がポッカリと開いちまうことなんだ。多分、あの二人の大きすぎる邪気に引き寄せられたんだろう。偶然にも謀反の時に、地震が起こったという証言も聞いた。 で、その二人があっちに行っちまったことで・・・なんつーんだ。その穴がゴチャゴチャになっちまって、穴ができやすくなって・・あとは知ってのとおりだ。」 その話を聞いても一つ納得がいかない。 何で元親は自分がここにいることをわかったのか。自分の存在は特定の人以外は秘密のはずだし、何よりこの世界に慣れてないはずの元親がそんなことを知ってるのか。 忠勝はわずかに赤く光る眼で元親を睨みつける。大体の内容を理解した元親はため息をついて説明する。 「聖王教会だかなんだかしらんが、そういうとこに拾ってもらった・・そういうわけだ。」 忠勝は、少し同情した。 「IS発動、ランブルデトネイター。」 「遠隔召喚・・・開始。」 そのころ地上管理局本部では、惨劇が起こっていた。 爆発音が響く。倒れていく人たち。進入するガジェットドローン。 その数は軽く1000を超えている。 中にはまだ人が残っている。走るフォワードメンバーとヴィータ、リィン。 「本部に向かって・・航空戦力・・・!?速い・・・!!」 「ランク・・推定オーバーS!!」 ロングアーチからの連絡を聞き、ヴィータは走りながらリィンを呼ぶ。 「そっちは、あたしとリィンが上がる!!地上は、こいつらがやる!!」 ポケットから待機状態のシュベルトクロイツとレヴァンテインを取り出し、ティアナに渡す。 「こいつらのことを・・・頼んだ!」 「届けてあげてくださいです!」 「「「「はい!」」」」 スバル達と別れるヴィータ。 ヴィータは赤い光、リィンは蒼白い光となり、一つになる。 「ユニゾン・イン!」 普段の真紅に染まったゴスロリ風のバリアジャケットが生成されてからバリアジャケットが純白へと染まる。 ユニゾン・インしたヴィータとリィンは、まだ見ぬ敵の元へと飛んでいく。そして 「ギガントハンマー!!」 「外したです!」 雲が消えたその空に浮かぶは茶髪だった男。今は髪が金に染まり、赤き眼光をヴィータにへと向ける。 その男の名は、ゼスト。 そしてその騒ぎの中、別々の場所でガジェットドローンが出てくるはずの魔方陣からは、二つの人影が出ていた。 一方ーー 「うわぁぁ!」 突然の襲撃者の攻撃に吹き飛ぶスバル。 ティアナ達は桃色の魔力に囲まれ動けない状態となっていた。 「ノーヴェ、作業内容忘れてないっすか~?」 ノーヴェと呼ばれたスバルによく似た赤髪の少女はそっけない態度で返事をする。 「うるせーよ。忘れてねぇ。」 奥から出てきた大きなサーフボードのような機械を持った少女、ウェンディがからかうように語る。 「捕獲対象三名。全部生かしたまま持って帰るんすよー?」 「・・・旧式とはいえ、タイプ0がこれくらいでつぶれるかよ。」 「・・・・戦闘・・・・機人・・・」 その二人の少女の姿を見てポツリとつぶやくスバル。 「ふっふーん?あたし達だけじゃないっすよー?」 その背後には無数のガジェットドローン。 「絶対絶命ってやつね・・これは・・・。」 ティアナが敵を思い切り睨みつけながら銃口を向ける。 「それでも・・やらなきゃいけない・・・」 ストラーダの切っ先を向ける。 「それが・・・私達の今やるべきこと!」 「キュクルー!」 ケリュケイオンを桃色に光らせ、戦意を見せるキャロとフリード。 「ちっ・・・。だったら!」 まず先手を切ったのはノーヴェ。黄色のウィングロードを発動させてスバルへと突撃。 「くっ・・・!」 スバルも突撃。そして拳と拳がぶつかり合う。すぐさまスバルは離れ、その離れた隙をついてティアナが射撃。 ノーヴェは回避して後ろに回りこみ、ティアナに蹴りを喰らわせようと、突撃する。 ティアナに当たったと思ったらティアナの姿は光の塵となって消えた。 「・・・幻影!?」 蹴りの衝撃であたりに砂塵が起こり、ウェンディが眼球に内蔵されているカメラであたりを見ると、四人ではなく、 数十人に増えたスバル達であった。 「うっそぉ!?・・なーんてね!」 一見成功したかに見えたこの作戦、だが二人の少女の悲鳴によって失敗に終わる。 「きゃあぁぁぁ!!」 「このっ・・・はなせぇ!」 ガジェットドローン参型の機械の触手に捕らえのは幻術を発動させていたティアナ、キャロの二人であった。 殴りかかろうとしていたスバル、切りかかろうとしていたエリオはその悲鳴によって動きを止められた。 「策を作るときは常に相手の裏を突け・・・。松永のおっちゃんが言ってたことがこんなとこで役に立つとはな。」 「さぁ、人質もいることだし、ついてきてもらうっすよ~?」 本当に絶体絶命かと思われたその刹那、手裏剣がティアナとキャロを捕らえていた触手を切り裂いた。 爆発の砂塵の中、スバルが目にしたのは見覚えのある赤髪。 「風魔・・・さん?」 その名を呟いた瞬間、その赤髪の人影の中心の砂塵が晴れる。そこに立っていたのは迷彩服を着ていた男。 手には少し大きい手裏剣が二つ。 「悪いけど、俺伝説の忍って呼ばれるほど働くの好きじゃないのよね~。ま、俺のほうがいい男だろ?」 その男を殺気を込めた目つきで睨み、構えるノーヴェ。 「・・誰だ。」 並の人なら逃げ出しているであろうその殺気を受けても不敵に笑うと手裏剣をヨーヨーのようにもてあそぶ。 数秒すると男の眼光が鋭くなっていた。 「人呼んで猿飛佐助。さぁーて、お前に俺の動きが見切れるかな?あ、言っとくけど一人じゃないよ?」 「何?」 その瞬間、装甲がボコボコにへこみ、上半分が引きちぎられたガジェットドローンの残骸が吹き飛んできた。 残骸を見て目を見開き、驚愕するノーヴェとウェンディ。 「フン・・・これしきで我に挑むとは・・・片腹痛いわ。」 奥から現れたのは人間にしては大きすぎる身長、体格をした男。片手にはボロボロになったガジェットドローンが握られている。 「我が名は豊臣秀吉・・・。貴様等は我を楽しませてくれるのだろうな・・・?」 二人の武将が、並んでノーヴェ達二人を睨む。 「・・・あ、お嬢ちゃん達早く行ってくれないかな?」 「あ・・・はい!撤退ー!!」 突然の乱入者にわけがわからないままスバル達は隊長の下へと走る。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3378.html
* クラナガンの朝は騒々しい。何故って、ミッドチルダの中心都市だから。 電気駆動車だから騒音もないのに、街は五月蝿い。僕の耳が良すぎるのもあるんだろうけど。でも空気は意外と綺麗で住みやすい。 ベッドから起き上がる。これがなかなか、寝心地が良いのだ。人間って凄いね。こんなものが作れて。以前もそれは実感したけど。 ま、腐葉土のベッドの方が僕の一族は喜ぶんだろうけどさ。 「さて、開店準備でもしますか」 今日も変わらない毎日。だけど悪くない。なかなか楽しいと思う。まともに"人間"として生きるのも悪くはない。 僕は思念で下僕に命令を送る。開店準備なんて雑務は自分でやるものじゃない。人に見られない仕事は全部押し付ける。 さぁ、今日はどんな面白い客が来るのかな。開店が楽しみだ。 リリカル×ライダー 第十五話『ガジェット』 「大変です、はやてちゃん!」 甲高い小学生の女の子みたいな声が耳に入る。こんな声を出せる者は六課には一人しかいない。 「リィン曹長、部隊長って呼びや」 「あっ、ごめんなさい! はや――八神部隊長!」 慌てふためきながら手足をばたつかせるリィン。二度目も危うく言いかけてる辺りリィンらしいと思うけど。 可愛らしいが公的な場ではもう少ししっかりしてほしい。一応地上本部のロビーなんやから。それこそ連れてる私の品格が疑われる。 「実はガジェットを発見したってロングアーチが――」 「そのことなら知っとるよ」 リィンがくりくりした大きな瞳をぱちぱちさせる。そう言えばリィンにも伝えていなかった。彼女は車で待機してたし。 そう、私がわざわざ地上本部を訪れていたのもその件だ。正確にはそれを予想しての行動だが。 遂に出現したスカリエッティ、そして呼応するように各地で出没するガジェット。スカリエッティの仕業なのは間違いない。 クラナガンに被害は幸いにも出ていないが、その目的は皆目検討もつかない。 けれどあの男が意味もなく行動を起こしたりはしないはずや。調べれば必ず手掛かりは掴める。 情報が少ない今、私達にはガジェット捜査の許可が必要だった。そしてそれを今取得した訳だ。 「リィン、なのはちゃんに連絡して。それとカズマ君も呼び出すよう、なのはちゃんにも言っといてな」 「はいです!」 地上本部から出て車に乗ると同時に指示を出す。これから六課も忙しくなるだろう。私も頑張らなあかん。 あの男との因縁、ここで断ち切る。 「はやて、六課に戻るの?」 前席から声がかかる。フェイトちゃんだ。実はわざわざ迎えにきてくれていたのだ。 ただ車はお世辞にもセンスが感じられないゲテモノスポーツカーやけど。 いくら給料が有り余っているとしても、私はこんな無駄遣いはしないなぁ。本人には言えないけど。 「頼むわ、フェイトちゃん」 車が緩やかに動き出す。振動も騒音もない車内で、傾けたリクライニングシートに深く腰掛けながら、私はこの先のことを考え始めた。 ・・・ そこは砂塵舞う戦場だった。 砂漠の中に作られた、土壁の家が立ち並ぶ小さな街。そこで薄汚い衣服を纏った者達が小銃片手に暴れまわる。 彼らが浮かべる表情は、恐怖。 先程まで狂気と狂喜で染められていた顔にべったりと塗り付けられているそれは、俺に向けられたもの。 そう、化け物である、俺に。 パン、パン、と。乾いた銃声が響く。体に衝撃。胴に突き刺さった鉛玉によって緑の血が流れ出す。その血に彼らはまた恐怖を深める。 だがそんな鉛球では効き目はない。瞬く間に傷口が修復されていく。何発当たろうと、意味はない。ただ、痛いだけ。 俺の姿、能力を目の当たりにした兵士は皆一様に表情を歪め、先程まで争い合っていた者同士でこの場を逃げ出す。 ――それでいい。 敵味方に別れて争う者達、だけど彼らは相手が憎くて戦っているわけじゃない。敵だから銃を向けているだけだ。 だからこその、俺。人類の敵。排除すべき化け物。 近くにいた勇気ある兵士の小銃を叩き落とし、背中を押すように殴り付ける。そいつは鼻水を流しながら必死に逃げていった。 それでいい。俺を憎み、俺を敵として認識すれば争う理由はなくなる。戦う意思を維持している者は俺が直接銃を奪えばいい。 それでいい。それで良かった。これで互いに争わずに済む。これで、この戦いは一時的にでも終わらせられる。 それでいい、と俺は呟き続ける。ジョーカーとなった硬質の頬に、冷たい何かを感じた。 「……夢か」 最悪の目覚めだった。 あれは五年ほど前の話か。正確にはは分からない。しかし酷い内容だったのは間違いなかった。 あの後、俺は戦車砲や爆撃により、木っ端微塵に吹き飛ばされた。それでも死ねないから、彼らは撤退するしかなかった。 結局、両陣営は俺という不確定要素を前に休戦を決定。一時しのぎかもしれないが、戦いを止めることが出来た。 俺はそうやって、一時的なレベルでも戦いを止め続けた。 それを、十年も続けた。 「だから、俺は――」 雪山、崖、鈍い音、緑の血溜まり。 (……止めよう。思い出しても不快なだけだ。ただでさえ気落ちしているというのに) 橘さんが死んでしまったことで散々気落ちしたのだ。もうこれ以上は耐えられない。 そんな電気すら点けずにいた俺の部屋に、一陣の光が射し込む。 「「カズマさん!」」 射し込んだ光より尚明るい子供の声。聞こえた方向に視線を向けると、そこには可愛らしい来客がいた。 「……エリオにキャロじゃないか」 六課最年少のフォワードメンバー、エリオとキャロ。二人は丸い頬を綻ばせながら俺に向けて笑顔を振り撒いていた。 ――あの夢の後に見たくはなかったな。 そんなことを思う俺を他所に、キャロが薄桃色の頬を膨らまして俺の隣に座った。 「カズマさん、もうお昼なのに寝てちゃダメですよ」 俺の隣で腰に手を当てて可愛らしく俺を叱るキャロ。その桃色の髪に手をやり、ぽんぽんと軽く叩いた。 「ああ、悪かったよ」 「それよりカズマさん! 今からキャロとクラナガンに行くんですけど、一緒に行きませんか?」 エリオが目を輝かせながら俺の元に歩み寄る。その目は純粋に遊びに行きたがる子供のそれだ。 こういったところを見てると、とても二人が強力な魔導師とは思えなくなる。 「でも良いのか? こんな時期に」 遊びに行くのは俺としては構わないと思うのだが、スカリエッティが出現した以上、そんな休暇があるとは思えなかった。 「フォワードの皆には半日だけ休息を与えることになったんです!」 「だから大丈夫です、行きましょう!」 そんな心配は無用だとばかりに俺を引っ張る二人に抵抗する術はなかった。 だから一言だけ、抵抗の言葉を吐くことにした。 「わかったから。取り敢えず――シャワーを浴びさせてくれ」 二人が仲良く一斉に俺から離れた。 ・・・ 「……ドクター」 書物と機械にまみれた、油と紙の匂いが充満する部屋。しゅごーしゅごーと蒸気かガスの音が中を彩る。 本来の広さを全く感じさせないほど歩くスペースすらない場所で、スカリエッティは研究を行っていた。 「なんだね、トーレ」 そんな彼に来客者が一人。 トーレは細く引き締まった体を曲げて彼に膝まずく。そんな彼女に、スカリエッティは薄く笑った。 「何故、ガジェットを?」 彼女は彼を見上げながら、鋭い目を細めて何かを読み取ろうとする。 相手はスカリエッティ、部下にさえ本意を見せない男なのだから当然だろう。 それが分かっているのかいないのか、スカリエッティはウーノが持ってきたミルクティーを飲みながらあっさり答えた。 「今回のはよく出来たと思ったんだ。良い実験になると考えてね」 無表情のまま空になったカップを持っていくウーノ。スカリエッティはウーノを見もせず、トーレを眺めていた。 一方のトーレはスカリエッティの答えを図りかねているらしく、眉をひそめていた。 それも仕方ないだろう。彼女は武闘派、故に難解な台詞から真意を読み取るのは得意ではない。 「ではやはり、ガジェットを奴と戦わせるのですか?」 だが彼女は無能ではない。スカリエッティが作り、そして今なお側に置いている以上、性能が低いはずはない。 それを分かっているからこそ、彼は答えを"ほどほどに"難解なものとしたのだ。 スカリエッティはモニターに浮かび上がる暗い空間に潜む影に視線を落とす。その目は愉悦で歪んでいた。 「まぁ、見てみたまえ」 スカリエッティは、そう短く締め括った。 ・・・ 「次はこっちに行きましょう!」 「あー、わかったわかった」 キャロに手を引かれてファンシーグッズに囲まれたピンク色の店に入る。いかにも女の子な店にキャロが入るのは別にいい。 だが俺やエリオは別だ。俺の白いシャツにジャケットと、ジーンズの姿はかなり目立つ。エリオも服装はともかく、目立つのは同様だ。 エリオも外で待つよりはいいと付いて来ているが、所在ない様子で俺のジーンズの裾を握っていた。 「キャロ、俺達は外で待ってた方が――」 「カズマさん! これとこれ、どっちの方が似合いますか?」 何とか店から脱出しようと画策するが、キャロはまるで話を聞いていない。楽しそうに二つのペンダントを俺達に見せていた。 俺は特別子供好きなわけじゃない。嫌いでもないが、十年以上もまともに人と接してないせいか、苦手意識はあった。 そんな俺に、何故二人はなついてくるのか、実のところよく分かっていなかった。ヴィヴィオもそうだ。俺には何かあるのだろうか。 「み、右の方じゃないか?」 適当だった。 その代わりエリオの背中を叩く。俺が答えても大した意味はない。だがエリオが助言するのは意味がある。 「ぼ、僕も右が良いと思うよ」 「ホント?」 「う、うん」 お互い緊張した物言いの俺とエリオだが、その回答を聞いて、キャロは嬉しそうに笑った。 エリオが幼いながらキャロに友情以上の感情を抱いていると、俺は思って背中を押したのだが、上手くいっただろうか。 こういうことも苦手だ。記憶が戻ってから、それがよく分かった。なにせ恋愛経験なんてまるでないんだから。 「じゃあ次は僕の行きたい店に行きましょうよ!」 ファンシーショップを出て、エリオがそう言った。二人が行きたい場所を順番ずつ回るらしい。 キャロは買ったペンダントやぬいぐるみを見ていて聞いてないようだったが。 「分かった、行こうか」 俺は二人の背中を押しながらエリオの行きたい店とやらに向かう。 幸いエリオのデバイスにナビゲーション機能が付いているので迷うことはなかった。 そのデバイスから浮かび上がったホログラムモニターには、『KING GAME』と表示されていた。 「ゲームショップ、か?」 「その、ゲームって買ったことないから興味があって」 話を聞けば、薦めたのはスバルらしかった。 実は俺もテレビゲームの経験はなかった。 子どもの頃にあったのはファミコンだったが、幼くして両親を火事で亡くした俺は買うことが出来なかったのだ。 それからも親の件がトラウマになって遊ぶことにすら抵抗があった。だから当初は義務感でライダーになったのだ。 しかしエリオくらいの年齢で遊びも知らずに育つのはもったいない。スバルの発案はなかなかの名案に感じた。 「いらっしゃい。へぇ、小さい子に――驚いた。縁でもあるのかな?」 店主の声。 その声はごく普通の青年のそれに聞こえる。だが違う。騙されるな。こいつは、人間じゃない――! ジョーカーの本能に従い、俺は条件反射でカウンターにまで詰め寄っていた。 「お前、上級アンデッドか!?」 「本当に記憶失ってるんだ。あの人間、なかなかやるんだね」 「……お前、やっぱりアンデッドなんだな」 すっとチェンジデバイスを抜き取る。左手にはポケットから引き抜いたカテゴリーエースのカード。 俺は周りも見回さないまま臨戦態勢を整えていた。 「落ち着いたら? 後ろの子達が驚いてるけど」 はっとして振り返ると、エリオとキャロがきょとんとした表情を浮かべていた。 しまった。街中の、しかも店内で変身しようとしてしまうなんて。俺は馬鹿か。 「どうしたんですか、カズマさん?」 二人はカードには気付いていない。俺はそっとカードをしまってから誤魔化すように笑った。 「あ、いや、別に何でも――」 「いや実は彼と僕、友人なんだよね。二人は店のゲーム見ててよね」 「カズマさんのお知り合いなんですか!?」 エリオが驚愕の表情を浮かべて叫んだ。隣でキャロも目を見開いている。 そう言えば大体は思い出したとはいえ一応は記憶喪失の身だった。知り合いなんて身の上じゃ変な勘繰りを持たれる。 俺にしては珍しく頭を回転させ、口を開いた。 「いや、前に外出したときに知り合っただけだ。記憶とは関係ないから」 それを聞いて残念そうな表情を浮かべる二人。 この二人は本当に良い子達だ。だから何としても、この二人は守らなければならない。 俺は改めて、軽薄そうな笑いを浮かべる若者――に擬態したアンデッドに顔を向けた。 「何のつもりでこんなことをしている」 「僕がゲームを売ってちゃ変かい?」 「当たり前だ!」 小声で怒鳴るという器用なことをやってみせるが、相手は表情も変えない。 相手は軽薄な表情を変えないまま、その笑みを深めた。 「僕はただ面白いから普通に生活してるだけだよ。人間の生活する場所でね」 本当に可笑しそうに携帯ゲーム機を取り出して遊び出す若者。その姿はあくまでも擬態なのに、違和感がまるで感じられなかった。 そんな思考に一瞬陥った頭を振る。この男は危険だ。ジョーカーの本能がそれを告げている。 「お前はアンデッドだ。人間の振りなんて目的がなくてするわけないだろ!」 「人間になろうとしたアンデッドは少なくとも二人は知ってるよ。別に僕がしても不思議じゃないさ」 人を小馬鹿にしたようにゲームから視線を逸らすことなく答える若者。確かに、こうしているとアンデッドには全く見えない。 いったいどういうことなのか、だがそれを聞き出す言葉が見つからない。 「ま、僕には構わないでほしいね」 コイツはそう言ったきり口を開くことなくゲームに熱中していった。 ちょうど話が途切れたのに気付いたのか、そこにエリオが走り寄ってきた。 「カズマさん! これとか面白そうだと思うんですが、どうでしょう?」 俺は結局、何も聞き出せないままエリオ達の元に戻るしかなかった。 そしてそれも間もなく忘れることになる。理由は簡単。 チェンジデバイスが、にわかに光り出したからだった。 ・・・ 「ごめんね、エリオ達といるときに呼び出して」 「いや、俺は大丈夫だ」 本当に大丈夫だったのだろう、清々しい笑顔でカズマはなのはの言葉に答えた。 カズマを呼び出したのは、なのはだった。正確にはそう指示したのは、はやてだったが。 クラナガンに現れたガジェット。 そのAMF反応をキャッチした管理局は六課に出動命令を出し、はやてはスターズ分隊を向けることに決めたのだった。 そしてカズマは遊軍として参戦すべく召集が掛けられ、ブルースペイダーによって急行したのが今だった。 「ガジェットはあの中にいるのか?」 「反応ではそうみたい」 二人が視線を向ける先には、建設中らしく幌に包まれたビルがあった。その高さは優に二十回は越えており、暴れるには十分な広さと言えた。 その入り口は先が見えないほど真っ暗で、どこか不気味だ。 「スバルとティアナには先に調査に向かわせたから、すぐにわたし達も合流しよう」 「分かった」 カズマは頷きつつチェンジデバイスとカテゴリーエースのカードを取り出す。 そのカードをなのはが取り上げた。 「ちょ、おい!」 「ダメだよ、カード使っちゃったら正体バレちゃうでしょ?」 「あ、そうか」 カードを使って変身する場合、アンデッドの力を行使する。 そのためアーマーに魔力を使用しない。故にデバイスの魔力探知に引っ掛からないため、嘘がバレてしまうのである。 カズマもそれを理解したのか、返されたカードをポケットに戻した。 「じゃ、カズマ君も行って」 「ああ」 カズマはそう言ってチェンジデバイスを腰に装着させながら。 「……やっぱり、怖いか」 「……え?」 そう呟いて、カズマは虚いビルの入り口へと走って行った。 「…………」 その背中が遠ざかる。もはや声は届かない。いや、彼女にはそもそも、掛ける言葉が見つけられなかったのかもしれない。 後ろから、フォワードメンバーと囲むような立ち位置でいれば、急な対処も出来る。自分の退路も確保しやすい。 そんなことを、彼女は考えたのではなかったか。 「わたし、ヴィヴィオのお母さんに相応しくないかもね」 自虐的な言葉を呟き、なのはは顔を上げる。 泣きそうに潤んだその目に映った空は、鈍色の曇天によって包み込まれていた。 ・・・ 「スバル、ティアナ、大丈夫か!?」 ビル中に轟くような怒声で呼び掛ける。だがその直後に頭を叩かれた。 「うるさい。ちょっと黙って」 後ろに振り向くと、グリップで殴り付けた姿勢を直しながら考え込むティアナと、その光景に苦笑するスバルの姿があった。 「殴ることはないだろ」 「今集中してるの。アンタは黙ってスバルと周辺の警戒をしてなさい」 どうやらすこぶる機嫌が悪いようだ。最近俺への態度が柔化しつつあったティアナだが、今は無効らしい。 仕方なく、今までの経緯をスバルに聞くことにした。 「で、今どんな状況なんだ?」 「取り敢えず一通り回ってきた所です!」 小声ながら元気の良いスバルの答えに疑問。だが失礼ながら、俺はその答えに疑問を覚えてしまった。 「ガジェットとは戦ったのか?」 一通り回ったならガジェットと戦闘を行ったはずだ。にもかかわらず彼女達の姿は無傷であり、戦った形跡もない。 その答えは、至極単純なものだった。 「それが反応はあるのに見つけられなかったんです」 一転してしょんぼりと項垂れるスバルの肩を叩きながら、今の状況に納得する。 おそらくティアナは姿を表さないガジェットへの対応策を考えているのだろう。ティアナはこういった現場の作戦立案に強い。 逆に俺とスバルはやることがなくなり、所在なげにしていたところになのはが現れた。 「ティアナ、状況を報告して」 「は、はい!」 さっきまで静かにしろと言っていた本人が声を上げていることには誰も突っ込まない。 結局、俺とスバルはやることもなく二人を眺めるしかなかった。 「……羨ましいなぁ」 「何が?」 「最近なのはさんと仲が良くて」 そんな雑談をやるまでになっていた。 「スバルは確かなのはに憧れて管理局に入ったんだっけ?」 前に聞いた話だが、スバルは過去に空港火災から救出されたことがあるらしい。そして彼女を救い出した人物こそがなのはなのだそうだ。 「私もなのはさんみたいに強くなって、今まで守られてきた自分を変えたいなと思って管理局に入ったんだぁ」 嬉しそうに笑みを溢しながらスバルは語る。俺は黙って、彼女の言葉に耳を傾けていた。 口下手な俺には聞いてやることしか出来ない。それで良いと思うし、彼女も何か言ってほしいわけではないだろう。 ただ聞いて欲しい。言うなれば惚け話みたいなものだった。 「それでそれで――」 「……スバル? ちょっと恥ずかしいんだけど」 いつの間にか、なのはがすぐ近くに来ていた。 「話、聞いてなかったよね?」 頬を紅に染めたなのはに、極めて真面目な口調でたしなめられた。 ティアナなど呆れて物も言えないという表情だった。 「あ……ご、ごめんなさい」 スバルも今さらながら真っ赤になって頭を何度も下げていた。 そんなことをしている場合でもないのだが。 「で、なのは。これからどうするんだ?」 俺の言葉になのはが朱を引っ込め、表情を引き締める。ようやく話が始まろうとした―― その時、鋼の輝きが暗いビル内に閃いた。 ・・・ 突如襲い掛かるガジェット。今までにない未知の力と、狭い建物に犇めく数十の数に、四人は翻弄される。 スカリエッティの実験、四人は如何に対処するのか。 次回『刺客』 Revive Brave Heart 目次へ 次へ